コラム

アメリカの悪質な選挙区割りにゴーサイン(パックン)

2019年07月20日(土)13時45分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

A Green Light to Gerrymandering / (c) 2019 ROGERS─ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<米議会下院の選挙区割りは、共和党に有利になるように恣意的に変更されている>

質問は2つ。民主主義はどういう制度? そして、アメリカは民主主義国家? 1問目で「国民1人1票で政府を決めるシステム」と答えたなら、2問目は無視してください。必然的にノーになるから。

まず大統領を決める選挙人制度をみてみよう。大統領選挙では、州ごとの選挙で各州の選挙人票を勝者総取りする。おかげで、ジョージ・W・ブッシュ大統領もドナルド・トランプ大統領も得票率で負けながら大統領になった。最後に共和党候補が得票率で勝って大統領になったのは1988年のパパ・ブッシュ。エリザベス英女王がまだぴちぴちの62歳のときだよ!

次は上院議員選挙。各州は議員が2人いるが、ワイオミング州とカリフォルニア州の人口は68倍も違う。つまり、ワイオミングでは1人68票持っているようなもの。田舎の票が重いから、18年の上院選では共和党が全米で1200万票差で劣勢だったのに、議席を2つ増やした。「負けるが勝ち」ってこれ?

最後は下院だ。風刺画が取り上げるのは gerrymandering(ゲリマンダリング)。恣意的な区割りで野党の票を集中させたり拡散したりして、選挙結果を変える作戦だ。例えば与党、野党の支持者が半々の30人を5人ずつ、6つの選挙区に分けるとしよう。普通なら与党は3区では「3-2」で勝ち、他の3区では「2-3」で負けるはず。だが1つの選挙区に野党支持者5人をまとめ、残りの10人を5区に割り振れば3-2、3-2、3-2、3-2、3-2、0-5で、与党が5区、野党が1区を勝ち取る結果になる。実際に18年のノースカロライナ州の下院選では共和党が5割の得票で約8割の議席を獲得した。区割りのおかげで。

民主主義国で許されるはずはないが、アメリカはもう民主主義国家ではない。悪質な区割りをめぐる裁判で米最高裁判所(Supreme Court)は6月下旬、選挙区を決めるのは裁判所ではなく議会だと、現状の合憲性を認めた。結局、大統領選挙の選挙人制度も、上院の「1人68票」制度も、下院の区割り制度も、憲法を変えないと変わらない。しかし偏った制度で選ばれた人は、偏った制度を守るように偏るだろう。司法手続きを取っても結局、偏った大統領に指名され、偏った上院で承認された、偏った最高裁が判決を下すのだ。無力さにむかつく!

一番むかつくのはどの偏り方も共和党に有利なところ。民主党だったら気にならないかもしれない。僕も偏っているから。

【ポイント】
LOOKS FINE TO ME!

私はいいと思う!

GERRYMANDERED STATES OF AMERICA
アメリカ・ゲリマンダー国(United States of America/アメリカ合衆国にかけている)

DEATH TO DEMOCRACY
民主主義の死

<本誌2019年7月23日号掲載>

20190723issue_cover-200.jpg
※7月23日号(7月17日発売)は、「日本人が知るべきMMT」特集。世界が熱狂し、日本をモデルとする現代貨幣理論(MMT)。景気刺激のためどれだけ借金しても「通貨を発行できる国家は破綻しない」は本当か。世界経済の先行きが不安視されるなかで、景気を冷やしかねない消費増税を10月に控えた日本で今、注目の高まるMMTを徹底解説します。


プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 9
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 10
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story