コラム

「半日で4000億円稼ぐ」中国インフルエンサーを待つ恐怖の落とし穴

2024年01月24日(水)15時03分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)
インフルエンサー

©2024 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<景気が減速気味な中国経済では、スマホ1つあれば稼げるライブコマースが拡大中。スーパーインフルエンサーと言うべきスターも誕生しているが、彼らを待つ「落とし穴」がある>

ネットの生中継で商品を販売する「ライブコマース」は中国語で「直播帯貨」。中国におけるライブコマースのスーパースターといえば、薇婭(ウエイヤー)と李佳琦(リー・チアチー)だ。この2人は、中国のネット通販各社が毎年大規模な安売りをする11月11日の独身の日キャンペーン期間初日、1日12時間の実況中継で計5億人近くのネットユーザーを動員し、総額約190億元(約3950 億円)の売り上げを達成したことがある。

2人は中国の「網紅経済」の代表人物である。「網紅(ワンホン)」とは中国語で「ネット上のインフルエンサー」のこと。網紅経済とは、ネットを舞台として、インフルエンサーすなわち網紅の影響力や人気を利用して金を儲けるビジネスである。李は「口紅王子」の愛称を持ち、5分間で1万5000本の口紅を販売した実績を持つ。


中国では不動産市場が不調な一方で、網紅経済は活気にあふれている。抖音(TikTokの中国版)をはじめ、動画アプリを利用する中国のユーザー数は10億4000万人以上、市場規模は7000億元を超えるという。

網紅経済の発展は景気減速で人々が低コスト消費志向になったこと、また40%を超えるとされる高失業率も原因だろう。大学卒業すなわち失業と言えるほど就職先がない若者たちにとって、ライブコマースは1台のスマホさえあれば、特別な技術や資格がなくてもできる仕事だ。

ただし中国のネット環境では、ライブコマースさえ安全とは限らない。李は2022年、天安門事件33周年の前日の6月3日、戦車の形をしたケーキを登場させただけで、食品販売の生中継を即座に中断され、その後109日間ネットから姿を消した。1992年生まれの李は、事件について何一つ知らないはず。戦車形ケーキにも「かわいい」程度の感想しか抱かなかっただろう。

先日の「卵チャーハン事件」もそうだが、中国では政治と無関係の食品でさえ、政府のタブーに触れる可能性がある。歴史を知らない李佳琦のようなカリスマも、政府のタブーを踏んだら、また必ずネットから消される。独裁政権下で真の経済発展はあり得ず、個人の安全・安定もない。現代中国史を振り返れば分かることだ。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 3
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 7
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 8
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story