コラム

「川普(トランプ)が負けたらウンコを食べる!」米大統領選で対立する中国人のむなしさ

2020年11月27日(金)16時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

China's Trump Lovers and Haters / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<選挙権がないのに家族同士でけんかをしたり、友人と絶交したりする始末。「川普(トランプ)」をめぐる中国人の論争は真剣そのもの>

あなたは「川粉(トランプファン)」? それとも「川黒(アンチトランプ)」? 米大統領選をめぐって深刻な二極分断が起きた。もっともアメリカ社会ではなく、中国SNS微信(ウェイシン)の記事共有機能、モーメンツ(朋友圈)での話だ。

アメリカの選挙権がないのに、「川普(トランプ)」をめぐる中国人の論争は真剣そのもの。家族同士でけんかをしたり、友人と絶交したりするほどだ。「もしトランプが負けたら俺はウンコを食べる!」という、とんでもない賭けをした「川粉」も現れた。

さらに面白いことがある。現在の「川粉」と「川黒」たちは、それぞれ4年前の立場から完全に逆になっているのだ。4年前、中国人「川粉」は愛国者ばかり。彼らはトランプがあくまでもビジネスマンで政治に無関心、経済最優先だろうと思い込み、その当選は中国に有利だと信じ応援した。だが、その結果起きたことは想像と正反対だった。次々に繰り出される貿易関税、ファーウェイ(華為技術)への禁輸強化、中国人留学生や研究者のビザ取り消し、新型コロナの中国非難......。4年後、かつての「川粉」たちは「川黒」に変わった。

その反対に4年前、トランプの当選で「アメリカの崩壊だ」と悲嘆した「川黒」たちは今、トランプの再選を支持する「川粉」に変身した。彼らはアメリカ的価値観に憧れる中国の自由派だが、なぜトランプ支持に変わったのか。

「私はトランプファンではないが、トランプの再選を支持する」。4年前、トランプを批判した天安門事件の学生リーダー王丹(ワン・タン)もその1人だ。トランプは確かにアメリカのリベラルな価値観を傷つけたが、世界的な民主主義と自由精神を破壊しているのは中国共産党。バイデンの対中政策はあまりにも手ぬるく、嘘ばかりの中国政府に対してはトランプのような強硬策が必要だ──トランプを支持する自由派中国人はそう考えている。

彼らの考えも理解できる。だが、外圧で中国共産党を崩壊させても、中国に民主と自由が当然のように到来するのか? その国の人々の覚醒がない限り、1つの独裁政権が倒れても、新たな独裁政権がやって来るだけではないか? 作家・魯迅が目指した「中国人の覚醒」はまだ遠い。

【ポイント】
你川黑!/ 打你个川粉!/ 严禁翻墙/ 川粉黑名单
このアンチトランプめ!/トランプファンのおまえをやっつけてやる!/壁越え厳禁/トランプファンのブラックリスト

王丹
1989年の民主化運動・天安門事件のリーダーの1人で、事件後に逮捕・投獄。国際的な圧力で1998年に仮釈放されアメリカへ亡命。現在は中国現代史を教えながら中国の民主化運動を続けている。

<本誌2020年12月1日号掲載>

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活のシナリオとは?
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story