コラム

「反権力」の時代の終わり

2015年08月11日(火)17時00分

 近代の国民国家の時代には、国家は唯一といっていい強烈な権力の源泉だった。しかし公共の領域においても、さまざまな非政府活動やソーシャルビジネス、市民運動、ボランティア活動、新興のインターネットメディア、さらには自然発生的なデモや抗議活動まで、さまざまな主体が生まれてきて、少なくとも民主主義社会においてはこれらを無視して国家が専制的に政策を断行することは難しくなってきている。

 なぜ権力が分散し、国家や大企業ではない力が増大するようなことが起きているのだろうか? 最近、邦訳が出た好著「権力の終焉」(モイセス・ナイム、日経BP)はこうした新しいさまざまな小さな力を「マイクロパワー」と呼び、マイクロパワーが権力に与えている要素を3つの観点から分析している。

(1)More(豊かさ)革命
(2)Mobility(移動)革命
(3)Mentality(意識)革命

 工業化と農業革命によって人々は豊かになり、貧困は減っている。途上国では中間層が増えている。これは実のところ、権力者からは厄介な事態である。なぜなら、食べ物やカネをちらつかせて、人々を従わせることが難しくなるからだ。

 グローバリゼーションは、さまざまな移動のコストを減らした。情報は瞬時にはるか遠くまで届き、モバイルはお金の決済を自由にした。LCC(格安航空会社)の普及で人間の移動のコストも以前よりはるかに安くなった。優れた頭脳は途上国からいったんは先進国に流出したが、これらの人々が再び故国に戻ってシステムを変えようという動きがここに来て加速している。「出口がない」と感じていた人たちの多くは移動し脱出するようになり、これが権力の分散を招いている。

 さまざまな情報が手に入るようになって、たとえ終身雇用の会社に勤めている人であっても、「会社の中のことしか知らない」というようなあり方はなくなってきている。自分の世界と外界はシームレスにつながるようになってきている。「権力の終焉」はこう書いている。

村上春樹の言う「卵」はシステムと一体化する

「ほとんどの人々は、世界、隣人、従業員、勢力者、政治家、政府を、自分たちの親が見ていたようには見ていない。それはいつの世でも、ある程度あったことだ。しかし、現代はかつてないほど広い範囲で、かつてなく安い費用で、移動したり、学んだり、他人とつながったり、通信したりできる資源と能力が得やすくなった。そんな状況が人々の認識や感情に与えているインパクトが、豊かさ革命と移動革命の相乗効果によって大幅に増大している。この事実が、世代間の意識、そして世界観の隔たりを否応なく際立たせているのである」

プロフィール

佐々木俊尚

フリージャーナリスト。1961年兵庫県生まれ、毎日新聞社で事件記者を務めた後、月刊アスキー編集部を経てフリーに。ITと社会の相互作用と変容をテーマに執筆・講演活動を展開。著書に『レイヤー化する世界』(NHK出版新書)、『キュレーションの時代』(ちくま新書)、『当事者の時代』(光文社新書)、『21世紀の自由論』(NHK出版新書)など多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:グリーンランド危機回避、NATO事務総長の「

ビジネス

答えるつもりはない=為替介入かとの質問に三村財務官

ビジネス

英総合PMI、1月速報53.9 24年4月以来の高

ビジネス

ユーロ圏総合PMI、1月速報値は51.5 予想下回
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 5
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story