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AI就職氷河期が米Z世代を直撃している

大学新卒レベルの職種がAIに奪われている可能性がある USA TODAY Network-REUTERS
<新卒者の失業率が異常に高い統計データに米社会が衝撃>
アメリカの雇用統計が低迷しています。7月から8月にかけて新規雇用数も失業率も予想を下回っており、8月の失業率は4.3%まで悪化、この4年間で最悪となっています。コロナ禍後に回復した際の最低値3.5%(23年7月)と比較すると、悪化傾向は顕著です。
通常ですと、このような雇用の悪化はダイレクトに景気後退と直結します。また株価の低迷を伴うことになります。トランプ政権がFRB(連邦準備制度理事会)に対して強く利下げを要求しているのは、そうした景気後退や株価の下落を防止しようという意図であり、それならばアメリカの政権としては特に変わったことをしているとは言えません。ですが、実際のところは景気がスローダウンしているかどうかは、良く分かっていないのです。というのは、株価は史上最高値圏にあって安定しているからです。
雇用統計の中で、特に悪化しているのが新卒の雇用だと言われています。実際に新卒者の失業率が異常に高くなっているというニューヨーク連銀の指摘は社会に衝撃を与えました。
そこで、話題になっているのがAIによる雇用カットが進んでいるという見方です。2022年暮にChatGPTが公開されてから、アメリカでは猛烈な勢いでAIの実用化が進んでいます。シリコンバレーの各社は巨額のAI投資を行って性能向上に突っ走っていますし、同時に大手から中小まで企業向けのコンサルは、AIの活用による効率化をあらゆる産業にプレゼンし続けています。
大卒レベルのホワイトカラー職がAIに置き換わっている?
つまり、景気が悪くなっているのではなく、人間の仕事がどんどんAIに置き換わっているので雇用統計が悪化しているという見方です。そんな中で、一般的に言われているのが大卒レベルの知的職務について、その初級職がどんどんAIに置き換わっているという説です。例えば、会計、法務、監査などの文書管理、CS(カスタマーサービス)の現場管理などで、自動化が進む中では人間のポジションを減らす動きがあるというのです。
最もインパクトがあるのが、ソフトウェア技術者であり、初級プログラマーの仕事は、どんどんAIに置き換わっています。AIそのものやデータサイエンスなど大量のデータを扱う仕事も同じで、従来は100人単位の人力で対応していた業務が、人間は1人で済むようになったというような話も聞きます。経営者たちもAI化に熱心であり、メーカー各社は本社の事務職を一気に削減するように動いていますし、小売の大手はAIが管理するロボットなどの導入を進めようとしています。
つまり、Z世代という若者たちを、AIによる就職難が直撃しているというわけです。前回の2024年の大統領選では、それこそZ世代によるトランプ支持が話題になったわけで、その背景にはまさにAIが人間に取って代わるような将来への不安感があったわけですが、1年も経たないうちにその不安がどんどん現実のものになってきた、そのようなムードがアメリカでは広がっています。
では、こうした急速な時代の変化に対して、政治はどのように対応していくのかと言うと、まず現在のトランプ政権のシナリオはとりあえず筋が通っているように見えます。移民へのビザ手数料を高額にしたりして、国内の雇用を優先させるとか、エリート大学への補助金を削減する代わり、ブルーカラーを育てる職業訓練に投資しようというのは、初級の知的労働がAIに置き換わる時代の流れとの整合性はあるからです。
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