コラム

AI就職氷河期が米Z世代を直撃している

2025年10月01日(水)12時00分

問題は、仮にAI改革が本当にどんどん加速した場合に、政権やその周囲が事態を正確に理解できるのかという懸念です。具体的には、職業訓練校を充実するとして、具体的には電気技師や配管工だというのです。ですが、現在はAIとロボティクスの時代ですし、高度な電池産業や半導体製造装置の施工やメンテナンスに対応するような高度人材は、少なくとも現在のアメリカでは育成の仕組みが十分にはありません。

ブルーカラーと言っても、そのように高度な配管工や電気技師、あるいはロボティクスのメンテ技術者などに適応する人材の層があるのか、あったとしても、そうしたキャリアを望むのかなど、具体的な部分はかなり未知の世界です。現政権がその点を理解して、成果が出るまでやり切れるかは分かりません。


一方で、民主党の穏健派は、今回カリフォルニアで成立した法案のように、AIへの規制という考え方は持っています。ですが、規制の多くは子供が自殺に誘導されないような安全性や、内容面での正確さなどAIの暴走を抑える方向性が主です。これまでシリコンバレーの活動や、グローバリズムの加速については、基本的に自由放任という態度を取ってきた民主党穏健派ですが、AIの急速な普及による雇用の変化にどう対応するのかについては、現時点では明確な視点はなさそうです。

同じ民主党でも左派の場合は、アマゾンの倉庫における「人間が機械に使われる」労働に反対したり、一部の若者たちは「雇用を奪う自動運転タクシーに投石」するなど、「資本主義が機械を使って人間を搾取する」こと自体への反対という考え方を持っています。一部の支持を得るかもしれませんが、それが技術革新そのものへの反対ということになれば、Z世代の多くの心をつかむかどうかは不明です。

AIに職を奪われる時代が現実のものに

その一方で、民主党左派には、AIが巨大な付加価値を生む時代には、人間の生きる権利を保証するためには、BI(ベーシックインカム)や、公共性の高い産業の公営化などが必要という主張もあります。こちらは若者に一定数の支持があり、ニューヨーク市長選で有力なマムダニ氏などがその象徴的な存在です。

ほんの少し前まで、アメリカの若者の世代的な関心事は環境問題でした。上の世代は「逃げ切れる」かもしれないが、自分たちが生きていく時代には温暖化の影響で、山火事や干ばつ、苛酷な自然現象などで苦しむだろうというのです。だから排出ガス規制を徹底してもらいたいとして、民主党への支持が集まっていました。

ですが、今はそれどころではないわけで、AIが自分たちの職を奪うという現象が現実のものになってきている、彼らの多くはそう感じています。2026年の中間選挙も、そして2028年の大統領選挙においても、この問題への説得力ある対策を持った勢力が大きく票を伸ばす可能性があると思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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