コラム

60年代学生運動『いちご白書』再び、ニューヨークのキャンパスが燃えている

2024年04月24日(水)11時30分
ガザ攻撃反対運動の学生テント(コロンビア大学)

ガザ攻撃反対運動の学生テントがコロンビア大学のメインキャンパスを埋め尽くしている(今月22日) Caitlin Ochs-REUTERS

<コロンビア大学のイスラエル非難行動への強硬対応をきっかけに、全米各地の大学に運動が広がっている>

イスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲テロが起きたのが、昨年の10月7日でした。これに対するイスラエルのネタニヤフ政権の反応は、ハマスのメンバーへの攻撃というものでした。この作戦は、当初は北部への空爆を主体としたものでしたが、やがて陸上からの侵攻も激化、さらに南部への攻撃も開始されるなどエスカレートしていきました。結果的にパレスチナの民間人犠牲は、3万人を超えると報じられています。

この事件の影響を大きく受けているのがニューヨーク市です。この半年間、イスラエル、パレスチナ双方の支持派によるデモが常に市内で発生していたからです。当初の段階ではイスラエル支持派はマンハッタンの東岸にある国連本部を拠点としてデモ活動を行っていました。また、パレスチナ支持派は島の中心にある繁華街の、タイムズ・スクエアでデモを行うことが多かったのです。


 

初期段階においては、警察当局は両派が接触するのを防止するため、徹底的な引き離し作戦を行っていました。両派の側も衝突を避け、穏健に主張を行うことで世論を敵に回さないようにしていました。この時点では、パレスチナ支持派は、アラブ圏の出身者や二世などが中心でした。

その次の段階では、コロンビア大学が主な舞台になりました。例えば、コロンビア大学の教授に就任したヒラリー・クリントン元大統領候補などは、イスラエル支持の立場を明確にしたため、多くの学生が授業をボイコットするなどの騒動が起きました。今年に入ると、イスラエルの攻撃による民間人犠牲が止まらない中で、アラブ圏出身以外の一般学生からもネタニヤフ政権の軍事行動に反対する動きが拡大していきました。

コロンビア大学のキャンパスは、その結果として両派がにらみ合う危険な状況になりました。やがて、パレスチナ支持派がキャンプ村を開設、先週4月16日の火曜日頃までには、学生たちがガザ攻撃反対を叫びながら歌って踊る「解放区」の様相を呈していました。その中では、「ティーチイン(討論集会)」「記録映画の上映」「反戦詩の朗読会」などのイベントも行われ盛り上がりを見せていたそうです。

イスラエル批判は反ユダヤ主義?

これに対して、18日の木曜日には大学当局が、この「解放区」、つまりキャンパス内にテントを張っていた学生約100名について停学の処分を行うとともに、警察の介入を要請して彼らは逮捕されました。姉妹校の女子大、バーナード・カレッジの学生も追って処分対象になりました。

この動きはこの問題の大きな転換点になりつつあります。処分と逮捕の対象となった学生の多くは直接暴力行動に走ったわけではありません。学生たちが主張している、「イスラエルがガザで行っているのはジェノサイド(大量虐殺)だ」とか「即時停戦を」という言い方は、「アンチ・セミティズム(反ユダヤ)」であって、人種迫害という重大な犯罪だというロジックが逮捕の理由とされています。

本来この「アンチ・セミティズム」という言葉は、欧州やロシア、アメリカ南部などで歴史的に見られたユダヤ人迫害を指す言葉です。パレスチナ側に立って、イスラエルの政策を批判する意見への非難に使うのは、言葉として誤用なのですが、ここへ来てそうした歯止めはなくなりました。

強引な論理ですが、こうした論理の裏には、例えばユダヤ系の学生、特に政治的な関心の薄い学生などが「自分の身の危険を感じる」と強く訴え出ていること、大学の経営を支えるユダヤ系大口寄付者の多くから強い批判があることが背景にあると言われています。ニューヨーク市の世論も、やはりユダヤ系の住民の影響力の反映として、数の論理、経済の論理としては、イスラエル寄りです。

一方で、パレスチナ支持派の学生たちは、パレスチナ国旗を掲げ、白黒チェックのバンダナをまとっています。中には「ハマスを支持する」というスローガンも見られます。ハマスは武装組織だけでなく、ガザ地区の行政を回している政党ですから、支持するとしても、正確に言えばテロを支持したことにはなりません。ですが、学生たちのそのようなルックスや言動は、どうしても親ユダヤ系に恐怖感を与え、強く挑発してしまいます。その結果として対立が激しくなっていったのは事実です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ルノー、インドでSUV「ダスター」刷新 存在感向上

ビジネス

破綻したファースト・ブランズ、フォードとGMが融資

ワールド

フィリピンと米国、南シナ海の係争海域で共同航行

ワールド

ブラジル、昨年12月の企業利益国外送金が過去最高に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに...宇宙船で一体何が?
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 8
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 9
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 10
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story