コラム

出張では「業務」以外の活動はいけないのか?

2023年02月01日(水)15時40分

つまり、海外に出張、もしくは滞在した際には時間を有効に使って、できるだけ現地社会に飛び込み、徹底的に「生きた現地事情」を収集、体験すべきという発想からは、「日本型の海外出張」は相当にズレたところにあるわけです。

日本人の偉い人の使い走りをしながら、出張に行けなかった人への気遣いとして「お土産というお裾分け」をする、そうした発想法の全体が「生きた情報収集」を妨害する考え方にほかなりません。

20世紀末には最終消費者向けのエレクトロニクス製品で世界を席巻していた多くの日本企業が、この40年の衰退期を経て全くお手上げになり、「B2B」つまり法人向け事業に絞るという撤退戦を余儀なくされたのも、こうした「現地事情の収集」を徹底的に軽視してきたからだと思います。

「〇〇スクール」という不毛な批判

政治や外交も同じです。そもそも、外交当局では相手国言語の習得をはじめとして、徹底的に現地事情を調べる人材を育成していますが、政界やメディアがそうした人材を「何とかスクール」などと呼んで批判するのも困ったものだと思います。

もちろん、相手国の事情を知り過ぎたために、必要以上に相手国との「穏便な関係」にこだわって判断を歪めるのは考えものです。ですが、言語習得と情報収集のルートそのものを軽視していては外交はできません。

中国外交の総責任者である王毅国務委員は、日本語がペラペラであり、日本の官民が発信する公開情報はニュアンスも含めて筒抜けです。王毅氏の「戦狼外交」のマネをする必要はありませんが、王毅氏に対抗して中国の現地情報を深く理解できるようなプロを継続的に養成するのは重要です。

観光して土産物を買っていたという岸田秘書官の行動を、若き日に日本人の中へ飛び込んで人脈づくりをしていた王毅氏の凄みと比較すると何とも情けないものを感じます。ですが、現在の野党やメディアの批判は、凄みのある国際人材を育成するのをかえって阻害しているようにも思います。官民どちらにおいても、とにかく海外出張したら、直接の業務遂行だけでなく、まずは現地社会に飛び込み、徹底的に情報収集能力を鍛える、これを第一にすべきと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

利下げ今年2回予想、一時停止の可能性も=ミネアポリ

ビジネス

ドイツ政府委、最低時給の段階的引き上げ勧告 27年

ビジネス

独当局、ディープシークをアプリストアから排除へ デ

ビジネス

アングル:株価急騰、売り方の悲鳴と出遅れ組の焦り 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 2
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉仕する」ポーズ...アルバム写真に「女性蔑視」批判
  • 3
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事実...ただの迷子ですら勝手に海外の養子に
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    【クイズ】北大で国内初確認か...世界で最も危険な植…
  • 6
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    伊藤博文を暗殺した安重根が主人公の『ハルビン』は…
  • 9
    富裕層が「流出する国」、中国を抜いた1位は...「金…
  • 10
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 7
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 8
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story