コラム

公判開始前から難航しているジョージ・フロイド氏殺害裁判

2021年03月09日(火)16時00分

とりあえず裁判所としては、9日から陪審員の選任を開始して、3月29日には冒頭陳述を行い、遅くとも4月の中旬から下旬には判決を言い渡すという日程で審理を進めるとしています。

問題は、ここで仮に「第3級」の容疑が加わるのであれば、仮に「第2級殺人」が無罪になって、有罪判決は「第3級」ということになる可能性が出てくるということです。どうも控訴審と下級審、つまり裁判所側はその可能性を見ていると思われます。そうなると、「第2級」で有罪の場合は最長で禁固40年となる一方で、「第3級」ですと、最長で禁固25年になります。

そもそもデモ隊と世論は、殺害シーンの動画を何度も見ることで、軽い「第3級」での起訴は承服できないとしており、その世論に動かされて「第2級」での起訴に代わったという経緯があるわけです。それが知らない間に「第3級」での起訴が復活して、あくまで仮の話ですが、最終的に有罪は「第3級だけ」となった場合には、恐らく納得しないでしょう。

「傷害致死」では世論が納得しない

警察の暴力の問題には、組織的な人種差別の問題があります。特に緊急通報があった際に、救援すべき対象を被疑者扱いして暴力沙汰にしてしまうとか、長身の黒人男性の場合に勝手に身の危険を感じて生命を奪ってしまうなど、組織的な人種差別があることが、この間の一連の事件で明らかになってきました。

明らかに各市町村の警察の現場は苦悩しており、改善への努力をしている警察もあります。ですが、仮に今回の公判が「第3級」のみ有罪となれば、そうした改革の流れにも影響が出かねません。

その一方で、アメリカの場合は司法の独立ということは厳格な法体系によって守られており、ルールをねじ曲げて判決を誘導することはできません。様々な困難が取り囲む中で、これから始まる法廷ドラマには全米の注目が集まると思われます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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