コラム

トランプの暴走はバイデン就任まで続くのか?

2021年01月05日(火)14時00分

ということで、この選挙は非常に重要なわけですが、現時点での世論調査によれば2議席とも民主党が僅差でリードしています。では、今回の「恐喝テープ」がどんな影響を与えるのかというと、

(1)民主党支持者は自分たちの正義をより確信し、トランプの共和党を負かそうとして、投票率が上がる。

(2)共和党の本流とその支持者は、民主党にスイッチする可能性は少ないが、事件に呆れて棄権が増えるかもしれない。

(3)共和党のトランプ派は、対決姿勢を強めてくれたトランプの繰り出すドラマを支持して、投票率が多少は上がるかもしれない。

という3つが考えられます。トランプとしては(3)を期待しているからこそ暴言を続けているわけですが、常識的には、どんなに(3)で票が増えても(1)+(2)というトランプにとってのマイナス効果の方が上回りそうです。

もっとも、トランプとその支持者としては仮に5日の選挙で2連敗しても、「どうせ不正選挙だ」と吠えれば自分たちの勢いは止まらないと考えているフシがあります。

そんななかで、歴代の国防長官経験者で存命している全員、つまり、チェイニー、マティス、エスパー、パネッタ、ラムズフェルド、コーエン、ヘーゲル、ゲーツ、ペリー、カーターの10名が署名した合同ステートメントが発表されました。内容は現職のミラー国防長官代行に対して「政権移行を妨害するために軍を使ってはならない」と厳しく警告したものです。

トランプ派は「ディープステート、つまり民主党、共和党にかかわらず政権の深層に隠れてアメリカを支配している偽善的な産軍共同体が正体を現した」などと怒るなかで、全く言動を改めようとはしないでしょう。ですが、さすがにこの10名の連名というのは重みがあり、軍としては何もできないと思います。

同時にこの宣言は、バイデン氏に対して「トランプが1月20日の正午を過ぎてもホワイトハウスを明け渡さなかった場合」には、軍は使って欲しくないというメッセージも裏に秘めているという見方もできます。これも憲法上、そして民主主義の原則から考えて当然のことだからです。

ということは、仮にトランプがホワイトハウスからの「立ち退き拒否」をした場合には、軍ではなく国内の連邦警察組織の1つである「シークレットサービス」がトランプを強制退去させることになると思います。

1月20日のバイデン就任まで、まだまだ様々なドラマが続きそうです。

ニューズウィーク日本版 ジョン・レノン暗殺の真実
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月16日号(12月9日発売)は「ジョン・レノン暗殺の真実」特集。衝撃の事件から45年、暗殺犯が日本人ジャーナリストに語った「真相」 文・青木冨貴子

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

独外相、中国の輸出規制による欧州産業混乱巡る問題解

ビジネス

パラマウント、ワーナーに敵対的買収提案 1株当たり

ワールド

EU、自動車排出量規制の最新提案公表を1週間延期 

ビジネス

NY外為市場=米ドル上昇、FOMCに注目 円は地震
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...かつて偶然、撮影されていた「緊張の瞬間」
  • 4
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 5
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    死刑は「やむを得ない」と言う人は、おそらく本当の…
  • 10
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story