コラム

「勝ったのはトランプ」と一部日本人までが言い張る理由

2020年12月17日(木)20時13分

大統領選に勝ったのはトランプだ抗議する支持者(12月12日、ミシガン州ランシング) Emily Elconin-REUTERS

<安倍ロスで菅にも不満、頼れるのはトランプだけ? 日本の保守派の児戯にも等しい喚き>

12月14日、次期アメリカ大統領を決める選挙人投票が行われ、2021年からのバイデン大統領誕生が確定となった。11月に行われたアメリカ大統領選挙で選ばれた「大統領選挙人」による投票で、バイデン候補が勝利するのは明らかだった。

しかし世界でただ一国だけ、この米大統領選挙でトランプ勝利を最後まで疑わないものが存在した。それが日本の所謂「保守派」である。日本の保守派は当然日本人で、アメリカ大統領選挙の投票権を有していない。アメリカの熱心なトランプ支持者が「バイデンは不正選挙で票を奪った、よってトランプの勝利の可能性はある」と主張するのは、自らが有権者として当事者の観点から、真偽はともかくそう叫ぶのには合理性がある。誰しも、自分の支持しない候補が当選すると、その理屈に不正選挙とか陰謀の妄想を張り巡らせるものだ。

しかし米大統領選挙にまったく関係のない、投票権すら持たない日本の保守派が、米大統領選挙の結果を踏まえてもなお、「バイデンは不正選挙を行ったのだから、トランプは勝っている」という摩訶不思議な主張を絶叫しつづけた。こんな摩訶不思議・珍妙な現象がアメリカ以外の国で起こっているのは日本だけである。

「保守大乱」の様相

長年、保守界隈に籍を置き、途中から彼らの馬鹿馬鹿しさに辟易して逆に観察対象としてこの界隈を10年以上ウォッチしてきた筆者からすれば、今次の米大統領選挙で保守派は「倭国大乱」ならぬ「保守大乱」の状況を呈している。それには米大統領選挙をめぐる二派の対立がある。一派は、「米大統領本選挙での結果を認め、バイデンを勝者として認めるべき」というもの。一派は、「米大統領本選挙ではバイデン陣営の不正選挙があり、バイデンは中国の走狗であり、実際にはトランプが勝っている」とするもの。

一見してみれば、前者が正論で後者が陰謀論の様な気もするが、米大統領選挙でバイデン氏が勝利したのを「認める」も何も、一般投票で約700万票トランプ氏に差をつけたバイデン氏が勝利したという事実を単に提示したに過ぎず、正論というよりはメディア報道そのままを追認したに過ぎない。

他方、後者については何ら根拠のないトンデモ陰謀論であり、この論を唱えている或る沖縄出身の自称保守論客は、コロナ禍のさなかわざわざ渡米してトランプ支持者を「熱心に」取材し、「如何にバイデンが不正をしたか、如何にバイデン勝利が虚構か」をSNS等で巻き散らかしているのであるが、これは滑稽を通り越して不憫にすら思える。前述のとおり一般投票における明瞭な差を差し置いてバイデン氏の勝利が覆ることはないという決定的事実の前では無意味な児戯に等しい。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story