コラム

クールジャパン機構失敗の考察......日本のアニメも漫画も、何も知らない「官」の傲慢

2022年12月11日(日)20時27分

コミックの聖地、東京ビッグサイト GOTO_TOKYO-iStock.

<日本のマンガ、アニメや農産品、ファッションを海外に売るために政府も出資して設立されたクールジャパン機構が巨額赤字で危機に陥っている。筆者は2018年からこうなることを予想していた。むしろ問題は、こんな駄目ファンドが生まれ、今まで続いているかということだ>

破滅に向かうクールジャパン機構

11月22日付の朝日新聞で『失速したクールジャパン 政府肝入りファンドに「最後通告」』という記事が出た。要約すると第二次安倍政権の肝いりとして2013年から官民ファンドとして設立されたクールジャパン機構(以下CJ機構)が21年末の段階で累積309億円という巨額の赤字を垂れ流しており、財務省が23年度中にも機構の統廃合を検討しているようである。

予想された結果である。私は2018年、CJ機構が東南アジアにおける事業計画の一大拠点として開店させたマレーシア・クアラルンプールの「ISETAN The Japan Store」を視察した。クールジャパンを謳っておきながら、店内には「スターウォーズ」「ディズニー」の商品が氾濫し、「日本産コンテンツ」は無いに等しかった。

食品フロアはむごいものだった。日本からマレーシアに輸入された農産品が、現地の市場価格を無視した異様な値付けがなされ、当然誰も買わないので放置されている。ファッションフロアも閑古鳥が鳴く。世界各地に進出しているユニクロ等のノウハウを無視し、「日本製品は優秀で高いブランド力を持つから工夫しなくとも売れる」という独善的な発想のもとに馬鹿高い値付けを行っているので、まるでフロアは失敗した遊園地のように客が誰もいない。同年6月、「ISETAN The Japan Store」の株式をCJ機構が手放して事実上撤退したのだが、この模様を私は『海外で見た酷すぎるクールジャパンの実態~マレーシア編~』として発表すると、膨大な反響があり取材が殺到した。

しかしなぜCJ機構はこれほどまで徹底的な失敗したのだろうか。端的にいえば、CJ機構は日本のコンテンツや農産品、ファッションを海外に売り出すと放言しておきながら、自国のことを何も知らず、進出先の商圏における競合企業等について市場調査を何もしなかったからである。敵を知らず己を知らず...放漫、慢心、傲慢、無思慮、そして無知。あらゆる冠詞をつけても足りないが、このような堕落をCJ機構は「日本は凄いのだ。ブランド力のある日本製品は無条件に海外に受け入れられるのだ」と糊塗して正当化した。CJ機構は失敗の総本山であり、完全に市場感覚が欠落した腐敗の集合体である。

例えば日本のアニメ、漫画等に引き寄せて分析を行っていこう。前述の「ISETAN The Japan Store」のとんでもない体たらくが示すように、CJ機構は日本のアニメ、漫画を売っていくと謳っておきながら、実際に日本国内に於いてどのようなアニメや漫画が人気であり、海外に於いてどのような具体的な作品が受けているのか、という知識を持たない。「ISETAN The Japan Store」の店舗構成が、CJ機構の無知の全てを物語っている。

敵を知らず己を知らず

ふつう、セールスマンは他人に商品を勧めるとき、自らが商品を使ってみて商品知識を深め、セールスポイントを探っていく。コンテンツも同じで、まず観てみて読んでみて感動するから他人に勧めようという熱量が生まれる。つまりセールスマンは、商売人であると同時にその商品の熱心なユーザーでなければならない。自分の会社が造った自動車に一度も乗らないのに、どうやって他者にその製品の良さを宣伝できるのか。商売人として当たり前のイロハをCJ機構は無視している。

プロフィール

古谷経衡

(ふるや・つねひら)作家、評論家、愛猫家、ラブホテル評論家。1982年北海道生まれ。立命館大学文学部卒業。2014年よりNPO法人江東映像文化振興事業団理事長。2017年から社)日本ペンクラブ正会員。著書に『日本を蝕む極論の正体』『意識高い系の研究』『左翼も右翼もウソばかり』『女政治家の通信簿』『若者は本当に右傾化しているのか』『日本型リア充の研究』など。長編小説に『愛国商売』、新著に『敗軍の名将』

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、香港の火災報道巡り外国メディア呼び出し 「虚

ワールド

26年ブラジル大統領選、ボルソナロ氏長男が「出馬へ

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 8
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story