アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出されるアフリカ人
写真は、ウクライナ東部ドネツク州の前線の町、コスティアンティニフカ。11月15日に撮影。ウクライナ軍提供。Reuters
Tim Cocks
[ダーバン(南アフリカ) 22日 ロイター] - 南アフリカ東部の港町ダーバン。子ども3人を育てる父親ドゥバンドレラさん(56)は、7月、20歳の息子がロシアでのVIP警護の精鋭訓練に応募したとき、誇らしさで胸がいっぱいになった。
5カ月が過ぎた今、父親は絶望の淵にいる。息子と少なくとも16人の南アフリカ人男性は、実態不明の傭兵(ようへい)集団によって、ウクライナに展開中のロシア軍に送り込まれた。「求人詐欺」に引っかかったのだ。
「自分のせいだ」。息子の大学費用を工面できなかった父親は、自宅でロイターにそう語った。ロシア外務省は、詐欺疑惑や17人の南アフリカ人の現在の状況についてのコメント要請に応じなかった。
<最前線から届いた写真>
南アフリカのラマポーザ大統領の報道官、ビンセント・マグウェニャ氏は、この事件に「最大限注目している」と述べ、「彼らの命は重大な危険にさらされている。ロシア、ウクライナ双方の当局と協議を続け、状況から解放する方法を探っている」と説明した。
さらに、12月の記者会見では「重要なのはウクライナ当局よりロシア当局だ。南ア人はロシア軍に取り込まれたという情報があるためだ」と述べた。
ドゥバンドレラさんの携帯電話には、12月初めに息子がウクライナ東部ドンバス地方とされる最前線付近から送ってきたという写真がある。
1枚には、戦闘服姿の息子が、ぎこちない手つきでカラシニコフ自動小銃AK―47を抱えて立つ姿が写っていた。
別の写真では、ウクライナ側のドローンから身を隠したあと、物置ほどの地下室のコンクリート床に下着姿で横たわり、眠ろうとする息子が写る。痩せ細り、肋骨が浮き出て見えた。
父親は息子の身を案じ、今回の記事では父子のフルネームを使わないよう求めた。
息子の話では、送り込まれた新兵たちは、凍てつく寒さの中、1日じゅう塹壕を掘って過ごした。「時には1週間も食べ物や水がないこともあった」。息子は電話口でしばしば泣いた。「帰りたい。お父さん、お願いだから、誰かに頼んで」と息子は訴えたという。
ロイターは、父親の証言や、ドンバスから電話で取材に応じた南ア人2人の証言の一部の内容について、独自には確認できなかった。
ドンバス地域の大部分は現在ロシア軍が支配している。ロシアがウクライナへ侵攻した2022年2月以降、激しい戦闘が続く。
<ロシア語の契約書>
今回の「詐欺」事件は11月6日、20―39歳の男性17人から、ドンバスに閉じ込められたとの救難要請を受けたことを南ア政府が明らかにしたことで表面化した。
南ア警察のエリート部隊「ホークス」による捜査の焦点は、ズマ元大統領の娘のドゥドゥジレ・ズマ・サンブドラ氏の関与だった。サンブドラ氏はその後、父親が率いる野党の議員を辞任。詐欺行為は知らなかったと関与を否定している。
サンブドラ氏は複数回のコメント要請に応じなかった。同氏の弁護士ダリ・ムポフ氏もコメントを拒否した。
11月24日の警察への宣誓供述書で、サンブドラ氏は自らも「詐欺の被害者」だったと述べた。党はその4日後の記者会見で、同氏の辞任は罪を認めたものではなく、詐欺とは全く関係がないと述べた。
警察報道官は、捜査は現在も継続中で、同事案を国家に対する犯罪の疑いとして扱っていると述べた。南アフリカ人が外国の国家や武装集団、傭兵に無許可で軍事支援を提供することは違法であるためだ。
ドンバスから電話取材に応じた南アフリカ人2人によると、17人は7月11日にロシアへ到着して数日後、南部ロストフナドヌーでロシア語の契約書を提示された。
通訳がいなかったため、署名をためらっていたが、その場にいたサンブドラ氏が「警備訓練の契約だ」と説得し、署名を促したという。
サンブドラ氏は、ドンバスでの会合への出席についてロイターからのコメント要請に応じなかった。
被害者の一人は、自分たちが戦場に送られると知ったとき、「ショックを受けた」という。
<心配はいらない>
南ア出身の新兵2人は、8月に戦争に行くと告げられたと語った。
ロイターが入手した、新兵の一人とサンブドラ氏との間の対話アプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」のやり取りがある。サンブドラ氏の認証済みアカウントの電話番号と写真が登録されていた。
新兵が彼女に「今まさに荷造りして戦争に向かう準備をしている」と送ると、ロイターが身元を確認できなかった人物が「行くのは前線ではない。怖がらせているだけだ」と返答。さらに、「やるのは巡回だけだ」と説明する。
新兵は「分かった。でも、今、銀行カードや携帯などの持ち物を取り上げられた」と訴えると、相手は「大丈夫。心配いらない」と返した。
ロイターにこのやり取りを公開した新兵は、17歳、11歳、3歳の子供を持つ40歳の南ア人ボディーガードだ。安全上の理由から身元を明かさなかった。この人物によると、サンブドラ氏とのやり取りは8月28日の昼近くに行われた。サンブドラ氏はこのやり取りに関するロイターの問い合わせには回答しなかった。
男性によると、新兵たちは頻繁に携帯電話を取り上げられ、食事はパンと缶詰の魚だけということも多かった。
彼らは砲弾を発射装置に装填し、装備は基本的なものに限られ、命の危険を感じたという。ロイターが最後にインタビューした12月18日時点で、男性はドンバスにいた。
<前線での死>
意図せずウクライナの戦争に巻き込まれたのは南ア人だけではない。ケニアは11月12日、200人以上の自国民がウクライナでロシア側兵士として戦っているとし、勧誘団体が今も積極的に、さらに多くのケニア人を紛争へ誘い込もうとしていると述べた。ボツワナ当局も、雇用の約束を信じて2人がだまされ、戦争に加わったと明らかにしている。
ロシア外務省は書面によるコメント要請に応じなかった。ロシアはウクライナで戦闘を行っている外国人傭兵についてはコメントしていない。
一方、ウクライナ外相は11月、30以上のアフリカ諸国から1400人以上がウクライナでロシア軍とともに戦っていると述べた。ロシアは、ウクライナで戦っているロシア人以外の人々に関する詳細は明らかにしていない。
8月に戦地に行ったケニア人、デービッド・クローバさん(22)もその1人だ。母親のスーザンさんは、ロシア語の契約書の写しをロイターに示した。
契約書には、デービッドさんは「この契約に定められた期間、自発的に兵役に就き、軍の宣誓に忠実であり、ロシア国民に無私無欲に奉仕し、勇敢かつ有能にロシア連邦を防衛する」ことに同意したと記されている。
ウクライナに送られると知ったとき、デービッドさんはスーザンさんに「自分は安全だ」と言って安心させたという。それが最後の連絡になった。
デービッドさんの消息についてケニア外務省の報道官は19日、「捜査は多部門が連携して進めており、さらなる詳細を待つほかない」と答えた。
だが9月30日、スーザンさんのもとに、前線で何が起きたかを目撃したというデービッドさんの同僚から、ワッツアップで音声メッセージが届いていた。デービッドさんが前線での爆発で死亡した、という内容だった。





