コラム

全米に拡大する黒人差別抗議デモは、大統領選にどう影響するか?

2020年06月02日(火)16時45分

ミネアポリス警察の暴行による黒人男性死亡に抗議するデモは、一部で放火、略奪を伴う暴動へと発展し全米に拡大した Lucas Jackson-REUTERS

<トランプがあくまで圧力によるデモ制圧に傾斜する一方、対抗馬となるバイデンの存在感はとにかく薄い>

5月25日(月曜)にミネソタ州のミネアポリス市で、46歳の黒人男性ジョージ・フロイド氏が警官の暴行により死亡した事件は、アメリカの社会と政治を一変させました。この事件でとりあえず、アメリカではコロナ危機はどこかへ吹っ飛んだ格好になっています。

事件が起きたのは25日ですが、26日からミネアポリスでは抗議行動が拡大し、警察署が放火されるなど連日連夜、深刻な事態が続いています。また、28日ころからは抗議行動が全米に拡大し、29日金曜の晩あたりからは週末に入ったこともあってニューヨーク、ロサンゼルス、アトランタ、ミルウォーキー、デトロイト、ワシントンDC、シアトルなどで激しい実力行動が発生しました。

この事件について、トランプ大統領は政治的に非常に欲張った作戦に入っているようです。

まず事件発生直後から、ミネソタ州の現場における対応への批判を続けています。批判の本丸はティム・ウォルズ知事(民主)ですが、それ以上に事件の現場であり、抗議行動の中心でもあるミネアポリス市のジェイコブ・フライ市長(民主)が38歳と若いこともあって、彼をターゲットに「対応が弱い」などと徹底的に攻撃を続けています。

トランプの計算としては、「スイング・ステート」であるミネソタ州における民主党州政が「治安維持のできない弱い政権」だという印象論を広めることで、この地域一帯の票を民主党から取り戻すことが目的だと思います。合わせて、同州選出でバイデン候補の「副大統領候補」の下馬評に上がっていたエイミー・クロブチャー上院議員の人気も潰せれば、と思っているのかもしれません。

ですが、同時にトランプとしては事件の被害者であるジョージ・フロイド氏の家族には、弔意を伝えています。また事件の批判もしています。これは、就任以来コツコツと集めてきた「黒人の現状不満票」を失いたくないからだと思います。

トランプ強硬姿勢には共和党内からも疑問の声が

ところが、28日頃から全国的な規模での抗議行動が激化すると、今度は、これを強く批判するようになっています。1968年にニクソンが「法と秩序」を掲げ、ベトナム反戦運動や公民権運動を不快に思っている保守票を固めていったのと同じ手法です。

例えば、ホワイトハウスにデモ隊が迫ると「入ってきたら猛烈な武器で追い払う」と脅迫的なことを言い、さらには「略奪は銃撃を意味する」という歴史的に黒人差別の象徴とも言える暴言を言い放つなど、この事件を機会に保守派に「おもねる」姿勢が強くなってきています。

さらに、正体不明な国内の極左グループ「アンティファ(ANTIFA)」をテロ団体に指定するとか、ワシントンDCの治安維持に正規軍を投入するといった、超法規的な言動も見せており、あくまで「力によるデモの制圧」に傾斜する姿勢は、共和党内からも疑問の声が出ています。

一部には、略奪行為の煽動などにはトランプ派の右翼が暗躍しているとか、ロシアの諜報機関がSNSでアメリカの治安悪化を煽っているなどの噂もあり、大統領とその周辺は混乱状態にあると言っていいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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