コラム

どうもスッキリしない、河井前法相夫妻の選挙違反疑惑

2020年01月16日(木)17時30分

河井夫妻が簡単に「負けを認められない」事情も理解はできるが Issei Kato-REUTERS

<河井夫妻が時間を稼いでいるように見えるのは、政治的な背景もありそう>

自民党の河井克行衆院議員(前法相)と、妻の河井案里参院議員については、公職選挙法違反の疑惑がズルズルと続いていましたが、1月15日には、広島地検による家宅捜索が行われました。このニュースだけを聞いていると、単純に夫妻が悪いことをして逃げ回っているだけのように見えます。

ですが、調べてみると、それ程単純な事件でもなさそうです。

まず、大きく分けて2つの疑惑があります。1つは、今回、地検が家宅捜索した「車上運動員に過大な報酬を払った」という問題です。13人に公選法の上限である1万5000円を上回る日当3万円を払った疑惑だということですが、疑惑自体がスッキリしません。

まず、車上運動員というのは「選挙カー」に乗って「連呼」をするのが仕事です。せっかく有権者の地元にクルマで乗り込むのですから、政見を語ったらいいと思うのですが、公選法では「動いているクルマの上では演説をしてはいけない」ことになっています。

一方で「連呼」つまり、「山田太郎、山田太郎をよろしくお願いします」というように、名前を続けて叫ぶのは「原則禁止」なのですが、選挙カーの場合は許されるのです。ということは、選挙カーに乗って連呼をすること自体が、選挙違反にならないテクニックが必要で、つまり「ウグイス嬢」というのは特殊な技術を持った仕事になるようです。

選挙違反を招く現状

ところが地域によっては「プロのウグイス嬢」の数は限られているので、争奪戦になる、しかし、日当には上限がある、そこで仕方なしに過大な金額をコッソリ払うと「選挙違反のリスク」が出てくる、そのような現状があるようです。

違反の背景はそうだとして、わからないのはその動機です。劣勢を挽回するために、無理に無理を重ねて「実弾」を投下して選挙に勝ったのか、そうではなくて、二流の選挙参謀を雇ったために、どこかで「ヘマ」をやって摘発されたのか、違反に至った経緯がわからないので事件の全体が不透明な印象があります。

そこで気になってくるのが、第2の疑惑、つまり、河井案里氏が、県議会議員にカネを配ったという容疑です。

この疑惑も不自然です。要するに県の選挙区から参院選に出ようという自民党の新人候補が、地元の集票マシーンである県議とその組織に協力を求めたが、簡単には動かないのでカネを配って協力を依頼したように見えます。また、仮にカネが動いたということであれば、受け取った政治家も悪いわけで、そこが追及されないのは不自然です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:米レポ市場、年末の資金調達不安が後退 F

ワールド

米、台湾への武器売却承認 ハイマースなど過去最大の

ビジネス

今回会合での日銀利上げの可能性、高いと考えている=

ワールド

中国、「ベネズエラへの一方的圧力に反対」 外相が電
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story