コラム

医学部入試における女性差別、改革は待ったなしの課題

2018年08月03日(金)16時45分

ところが今回、東京医大で明らかになったのは「女性の入学者を全体の3分の1に抑制するために、入学試験の点数自体を操作していた」というのです。しかも、このような不正は東京医大だけでなく、例外はあるにしても、医大一般として、幅広く行われている、そんな報道も出ています。10数年前に聞いた「女性は不利」というのは、そういう意味だったのかと考えると、愕然とする思いです。

一部の報道では、入試の一環として行われる面接の際に、結婚や出産に関する計画を尋ねるということも平気で行われていたそうです。18歳時点でそんな質問をすること自体がナンセンスですが、その回答が合否に影響を与えるというのも信じられません。

こんな差別がまかり通っているというのでは、とても先進国とは言えません。入試の不正をすぐに中止し、さかのぼって訂正できる合否は訂正すべきですし、以降は絶対にこのような不正が起きないように、全国の医学部の入試と合否判定に対して厳重な監視を行うべきだと思います。

それだけでは不十分です。優秀な女性医師がキャリアを通じて活躍できるように、制度や社会慣行の全てをパッケージとして改革しなくてはなりません。例えばですが、以下のような施策が必要になって来ると思います。

1)出産や育児休業中に、最先端の研究発表や最新の医療機器のスペックや操作方法、認可された新薬のデータ、医事関係の判例などにリアルタイムでアクセスできるよう支援。

2)もちろん、育休は男性医師にも取得可能な制度に。そして、看護師なども含めた医療現場の各職能全てに。

3)男女共に子育てや家事と勤務医としての生活が両立するよう、必要に応じて「要員増」。それによって発生する追加の医療費には財源を確保。

4)医師同士の夫婦の場合に、配偶者が研究留学等で勤務地が移動する場合に、その配偶者も同様の機会を与えられて同行でき、同時にその研究や留学の期間中の子育て・家事との両立が可能な制度。

5)医師は「格上」の職業であり、医師以外の男性は女性医師と結婚すると「格差婚」となるので結婚相手として回避すべきなどという偏見は、社会問題として徹底的に取り組んで克服。

つまり、この問題は単なる入試における差別ではなく、医療機関の人事制度から医師の適正人数の問題までも含めた全体的な問題なのです。要するに文科省マターではなく、厚労省はもとよりオールジャパンで取り組むべき喫緊の課題だということが言えます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ウニクレディトCEO、独首相にコメルツ銀買収の正当

ビジネス

米EVルーシッド、第2四半期納入台数が38%増 市

ワールド

焦点:困窮するキューバ、経済支援で中国がロシアに代

ビジネス

スターボード、トリップアドバイザー株9%超保有 株
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    韓国が「養子輸出大国だった」という不都合すぎる事…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story