コラム

ロシア寄り発言で窮地に立つトランプ、秋の中間選挙までに態勢を立て直せるか

2018年07月19日(木)18時10分

これは、ちょうど1年前、2017年8月にバージニア州シャーロッツビルで起きた白人至上主義者などと反対派との衝突で1人が死亡した際に、大統領がトランプタワーでの記者との問答で「双方に責任がある」などと述べ、大きな批判を浴びた状況に似ています。

中道層を含む広範な世論、そして与野党を超えた政治家たちが厳しく大統領を批判している一方で、支持者のコアの部分は、変わらずに大統領を支えていたという状況が、大変に良く似ています。

では、1年前と同じように、今回も「危機を脱する」ことができるのでしょうか? 3点考えてみたいと思います。

1つ目は、今後の政治日程です。昨年の場合は、このまま夏から秋は「寝たふり」をしていて、12月になって猛然と「トランプ税制」可決に突っ走り、これを成功させています。現在政権が一定の力を行使しているのは、この成果が大きいわけです。

ですが、今年(2018年)の場合は、11月初旬に中間選挙があります。その少し前、いや選挙戦が本格化する9月には体勢を立て直している必要があります。この点では、昨年とは条件が全く違います。

2つ目は、昨年のトラブルが「タチの悪いものではあるが、あくまで単発」であった一方で、今回の失言というのは、就任前後から続いており、現在も特別検察官とFBI、司法省によって捜査の続いている「ロシア疑惑」に直結しているという違いがあります。

仮に「ロシア疑惑」で、新しい材料が出てきたり、反対に大統領側が焦ってしまって「ローゼンスタイン司法副長官の解任」というような「禁じ手」に走ってしまうと、政権への大きな逆風に発展する可能性はあります。

3つ目は、経済の勢いに違いがあるという点です。昨年と比較すると、現在は、景気の過熱感が少し出てきています。また、貿易戦争というアメリカ経済全体にとって「オウンゴール」に近い政策が動き出しているという違いもあります。そんな中で、仮にFRBのパウエル議長が9月に強引に利上げをするようですと、景気や株価の大きな調整局面へと突入すする可能性もゼロではありません。

可能性としては大きくないにしても、「ロシア疑惑の深刻化」が「株の暴落」を招いて、政治的窮地に陥るというシナリオも想定しておく必要があるでしょう。今回の騒動は、いつもは超マイペースの大統領に焦りが見えることも含めて、夏から秋の政局に大乱が生じる可能性を秘めています。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「

ビジネス

バフェット氏、バークシャーCEOを年末に退任 後任

ビジネス

アングル:バフェット後も文化維持できるか、バークシ

ビジネス

OPECプラス、6月日量41.1万バレル増産で合意
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 8
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 9
    なぜ運動で寿命が延びるのか?...ホルミシスと「タン…
  • 10
    海に「大量のマイクロプラスチック」が存在すること…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story