コラム

既視感だらけの「政府閉鎖」ドタバタ劇

2018年01月23日(火)18時30分

一方で、こうした「ドタバタ感」は既視感だらけということも言えます。例えば、2013年の政府閉鎖の場合、当時はオバマ政権下で共和党が下院の多数を占めていました。そんな中で、予算案に含まれる「オバマケア」つまり医療保険改革絡みの歳出にイチャモンをつけたことで、予算審議が暗礁に乗り上げたのです。

この時は、「さすがに政府閉鎖は回避されるだろう」という見方が主流だったのですが、後に大統領候補となるテッド・クルーズ上院議員が「長時間演説作戦」をやったりする中で時間切れとなって政府は閉鎖、結果的に16日間も続いたのでした。

さらにその前は、1995~96年にかけてで、この時は「均衡財政」を目指した共和党のニュート・ギングリッチ下院議長が、当時のビル・クリントン大統領(民主)を相手に激しい政争を繰り広げ、断続的に計27日間の「閉鎖」になっています。

この時の政争は、何とも激しい泥沼でしたが、13年も与野党のイデオロギー対決の争いの結果でしたし、今回の「閉鎖」にいたっては、移民の若者たちの人生設計を弄ぶかのような、おかしな政争になっています。

そんなわけで既視感では、この「政府閉鎖」には辟易させられるわけですが、同時に95~96年の時には衝撃的だった「閉鎖」に、アメリカ社会が慣れてしまっている、あるいは麻痺してしまっているのかもしれません。今回は、社会の受け止め方は平静そのものでした。

既視感ということでは、「政権の内幕暴露本」である『炎と怒り』が現在アメリカで大きな話題となっているなかで、テレビドラマ化、あるいは映画化の可能性が取りざたされています。

というのは、似たような話が96年にもあったからです。就任丸3年を迎えたビル・クリントン大統領に関して、92年の大統領選挙の「闇の部分も含めたなりふり構わぬ戦いぶり」を暴露した『プライマリー・カラーズ』という本が爆発的にヒットしたのです。衝撃的な内容と同時に、作者不詳という売り方も話題を呼んだのでした。(後に、タイム誌のコラムニスト、ジョー・クラインと判明)

今から思えば、クリントン夫妻について、反対派は「裏表のあるカップルだ」とか「権力のためには手段を選ばない」といった印象を抱いていますが、そうしたイメージを作った契機として、この本の影響は今でも残っています。この書籍は後に映画化(邦題は『パーフェクト・カップル』)されていますが、映画化にあたっては「毒のある」部分は完全に抜かれ、クリントン大統領は「スタントン大統領」という架空の人物にされて衝撃度はほとんどなくなり、映画として話題になることもありませんでした。

政府閉鎖にしても、暴露本の映像化にしても、このように既視感のある現象なので、衝撃的ではありません。アメリカの政局にはどうしようもない停滞感が漂っているのです。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

全米の大学でイスラエルへの抗議活動拡大、学生数百人

ワールド

ハマス、拠点のカタール離れると思わず=トルコ大統領

ワールド

ベーカー・ヒューズ、第1四半期利益が予想上回る 海

ビジネス

海外勢の新興国証券投資、3月は327億ドルの買い越
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 7

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 8

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story