コラム

トランプへのスポーツ選手の抗議、今後拡大する可能性も

2017年09月26日(火)15時30分

24日の試合で膝を立ててトランプへの抗議を示すインディアナポリス・コルツの選手たち Brian Spurlock-USA TODAY Sports/REUTERS

<人種問題で抗議行動を続けるNFLの選手についてトランプが「クビにしろ」と暴言を吐いた問題で、抗議の連帯はNFLの各チーム、さらには他のスポーツ選手にまで広がりそうな勢い>

NFL(ナショナル・フットボール・リーグ)と、トランプ大統領との間の対立が決定的になってきました。発端となったのは、試合前の国歌演奏における人種差別への抗議行動で、2016年にコリン・キャパーニック選手(当時、サンフランシスコ・フォーティナイナーズのQB、クオーターバック)が始めたものです。

具体的には、国歌が流れる中で膝をつくという行動で、この2016年の時点では、特に白人警官による黒人男性の一方的な射殺行為への抗議でした。この問題については、2016年の時点では大統領選の争点にも関係した政治的に微妙な問題ということで、キャパーニック選手は、その後にFA(フリーエージェント)宣言をしたのですが、どのチームも契約に手を上げないという状況が続いていました。

そんな中、「白人警官の擁護」という姿勢に加えて、「白人至上主義者の行動もケンカ両成敗」というトランプ大統領の言動は、NFLの選手たちにも動揺を与えていたのです。

一方でトランプの側でも、この秋のNFLのシーズン開幕にあたって、メジャーなスポーツ局のESPNのキャスターが「トランプは白人至上主義者」と発言したのに立腹して、ESPN全社とそのNFL中継番組に関して激しい言葉で中傷するという事件がありました。

そんな中で、少しずつ「膝をついて抗議」という行動が広がってきました。また、NFLだけでなく、バスケットボールのNBAにおいても、こちらは、既に6月に全米のチャンピオンを決める「NBAファイナルズ」でゴールデンステート・ウォリアーズが勝っていたのですが、その優勝チームが恒例の「ホワイトハウスへの招待」を拒否する動きに出ると、大統領は激怒し、これに反発したスター選手たちが続々に大統領批判を行っていたのです。

そして9月22日にアラバマ州で行われた「ラリー形式の集会」で演説した大統領は、大暴走してしまいました。「国歌演奏中に抗議するやつはオーナーがクビにしろ」と叫んだばかりか、自分がやっていた往年のテレビ番組を思い出したのか「お前はクビだ」という決め台詞を激しい口調で叫んだのでした。しかも、子どもにはとても聞かせられない侮蔑語まで口にするという完全な「暴言モード」でした。

しかも、このアラバマ演説とほぼ同じ内容のツイートを週末には繰り返し流していることから、大統領としては一歩も譲らない構えのようです。とにかく、NFLについて「ファンは観戦をボイコットせよ」とか、抗議行動に対して「ブーイングした人間は正しい」、あるいは「これでNFL中継の視聴率が下がればいい気味だ」という挑発までやっています。

【参考記事】北朝鮮の次はNFLを「口撃」、スポーツまで敵に回したトランプ

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

中国地方特別債発行、8月は6007億元に急増

ビジネス

ファーウェイが最新スマホ性能説明を見送り、孟会長の

ワールド

中国、APEC成功へ建設的役割を果たす用意 王外相

ワールド

米ロ、ナゴルノカラバフ危機巡り非難の応酬

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:日本化する中国経済

特集:日本化する中国経済

2023年10月 3日号(9/26発売)

バブル崩壊危機/デフレ/通貨安/若者の超氷河期......。失速する中国経済は日本経済と同じ道をたどるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    中央アジアでうごめく「ロシア後」の地政学

  • 2

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウィリアム皇太子、弟夫婦が受けた扱いとの違いは歴然

  • 3

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の「記憶に残る」7着のドレス

  • 4

    西日本最大級のグルメイベント「全肉祭」 徳島県徳…

  • 5

    「クレイジーな誇張」「全然ちがう」...ヘンリーとメ…

  • 6

    横暴中国、バリアーを張って南シナ海のフィリピン漁…

  • 7

    中国高官がまた1人忽然と消えた...中国共産党内で何…

  • 8

    「中流階級」が50%以下になったアメリカ...縮小する…

  • 9

    広範囲の敵を一瞬で...映像が捉えたウクライナ軍「ク…

  • 10

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳…

  • 1

    マイクロプラスチック摂取の悪影響、マウス実験で脳への蓄積と「異常行動」が観察される

  • 2

    常識破りのイーロン・マスク、テスラ「ギガキャスト」に「砂」活用し他社引き離す

  • 3

    最新兵器が飛び交う現代の戦場でも「恐怖」は健在...「スナイパー」がロシア兵を撃ち倒す瞬間とされる動画

  • 4

    これぞ「王室離脱」の結果...米NYで大歓迎された英ウ…

  • 5

    「ケイト効果」は年間1480億円以上...キャサリン妃の…

  • 6

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 7

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 8

    J.クルーのサイトをダウンさせた...「メーガン妃ファ…

  • 9

    ロシアに裏切られたもう一つの旧ソ連国アルメニア、…

  • 10

    「クレイジーな誇張」「全然ちがう」...ヘンリーとメ…

  • 1

    イーロン・マスクからスターリンクを買収することに決めました(パックン)

  • 2

    墜落したプリゴジンの航空機に搭乗...「客室乗務員」が、家族に送っていた「最後」のメールと写真

  • 3

    <動画>ウクライナのために戦うアメリカ人志願兵部隊がロシア軍の塹壕に突入

  • 4

    中国の原子力潜水艦が台湾海峡で「重大事故」? 乗…

  • 5

    コンプライアンス専門家が読み解く、ジャニーズ事務…

  • 6

    「児童ポルノだ」「未成年なのに」 韓国の大人気女性…

  • 7

    サッカー女子W杯で大健闘のイングランドと、目に余る…

  • 8

    「これが現代の戦争だ」 数千ドルのドローンが、ロシ…

  • 9

    「この国の恥だ!」 インドで暴徒が女性を裸にし、街…

  • 10

    ロシア戦闘機との銃撃戦の末、黒海の戦略的な一部を…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story