コラム

トランプへのスポーツ選手の抗議、今後拡大する可能性も

2017年09月26日(火)15時30分

この直後の24日の日曜日には多くの試合が行われたのですが、その中で多くのチームが団結して抗議行動を行いました。イギリスでの公式戦(メジャーの公式戦を日本でやるような引っ越し興行)では、ジャガーズとレイブンズの多くの選手が膝をついて抗議を行いましたし、ナッシュビルで行われたシーホークスとタイタンズの試合では、両チームが国歌演奏の際にロッカールームに留まってフィールドに出ることを拒否。今年2月のスーパーボウル覇者であるニューイングランド・ペイトリオッツでも、ホームゲームで多くの選手が膝をつく抗議をしています。

つまり、大統領は自らの暴言によって、NFLの多くの選手達を敵に回したわけです。ところで、この抗議行動に関しては、「国歌の際に膝をつく」選手が多く出る一方で、「膝をついている選手に連帯して、彼らを擁護する」という意味合いで、「腕を組んでつながる」という抗議も行われています。

例えば、球界最高の選手と言われて、全国区的な人気のあるペイトリオッツのQB、トム・ブレイディも、24日にはこの「腕組み」に加わっていたということで、これは大変な話題になりました。こうした「抗議への連帯」ということでは、主要チームのオーナーたちも加わっていましたから、大統領はここへ来て完全にNFLのリーグ全体を敵に回したと言っていいでしょう。

NBAについては、今は完全なオフシーズンですが、例えば球界を代表する存在であるクリーブランド・キャバリアーズのレブロン・ジェームス選手は、厳しい大統領批判を続けています。例えば「自分がNFLのオーナーであれば、FAのキャパーニック選手を絶対に採用する」という調子です。

では、この抗議行動ですが、NFLとNBAに留まるのかというと、現在公式戦の終盤に差し掛かってポストシーズンを間近に控えたMLB(メジャーリーグベースボール)でも動きが出てきました。現時点では、はっきりとした抗議行動を取っているのは、オークランド・アスレチックスのブルース・マックスウェル捕手が有名です。マックスウェル捕手は、アラバマ州ハンツビルの出身で、自分の故郷で大統領が激しい口調の暴言を吐いたことにショックを受けて、行動を開始したと述べています。

例えばヤンキースの場合ですと、エースのベテラン左腕CCサバシア投手は、まだ具体的な抗議行動は示していないものの、NFLやNBAの抗議行動を支持する立場を表明しています。そのヤンキースのジラルディ監督は、「自分は率先して抗議はしないが、チーム内に抗議を行う人間が出た場合は許容する」と言明しています。

一方で、25日に49号と50号を打って新人での本塁打記録を更新した、スラッガーのアーロン・ジャッジ選手は、アフリカ系の血を引いていることもあって言動が注目されていますが、「自分は野球に専念するだけ」と今のところは優等生的なスタンスのようです。

というわけで、MLBではまだ大きな動きは出てきていません。また、注目されているマックスウェル選手の所属するアスレチックスは、ポストシーズンの可能性は消滅しています。ですが、仮にこれからNFLやNBAの選手たちと、大統領の確執が激しくなり、「国歌が流れても何もしないのがかえって不自然」になるようであれば、MLBでも動きが出てくる可能性はあります。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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