コラム

大統領発のフェイクニュースは、スルーした方がいい

2017年03月07日(火)18時00分

一方で、テレビの方では、6日の朝はホワイトハウスの副報道官である、サラ・ハッカビー=サンダース氏(マイク・ハッカビー大統領候補の長女)が出てきてホワイトハウスの立場を代弁していました。彼女は、三大ネットワークを掛け持ちで出演しており、例えばABCのジョージ・ステファノポロスや、NBCのレスター・ホルトなど大物ジャーナリストの追及を必死になって「かわして」いたのです。

その様子について、ワシントン・ポスト(電子版)でダナ・ミルバンク記者は「ホワイトハウスの側としては、何の根拠も示すことができない」中で、ハッカビー=サンダース氏としては、「とにかく大統領が固く真実だと信じているので」ということを「繰り返すしかなかった」と厳しく批判しています。

ただ、私の見ていたNBCの番組ではハッカビー=サンダース氏は、常にニコニコした表情でしたから、「大統領が何の証拠もないことを喋ってしまって、危機管理が必要な事態」という認識ではなさそうでした。むしろ「大統領を信じないというのは完全なポジショントークだし、信じるというのも一種のポジショントーク」というような理解の中で、特に大統領の発言が「悪いこと」だという認識はなさそうに見えました。

また、この日の午後にハッカビー=サンダース氏の上司にあたるショーン・スパイサー報道官は、いつもの定例会見に臨んで、どういうわけかカメラを追放し「音声のみ」の会見とした上で「(オバマ政権が)何かを行っていたのは明白だ」と大統領を擁護しつつ、具体的には内容を曖昧にしたコメントを述べています。

それにしても、この大統領の連続ツイート騒動のおかげで、この日の朝の各メディアは、もっと重要な「第二次入国禁止令」の署名直前の状況に関する報道は小さな扱いになってしまいました。

【参考記事】トランプ施政方針演説、依然として見えない政策の中身

とにかく、現職のアメリカ大統領が土曜日の早朝にいきなり連続ツイートを始める、しかもその内容は「全く根拠のないもの」というのは前代未聞です。しかしこうした事態に、メディアはどう対処するべきか、という疑問が生じます。常識的なのは徹底して批判するという手法です。今回も結果的にはそうでしたが、これが最善だったのでしょうか?

そうではないと思います。まずファクトチェックの結果を並べて論破し、徹底批判を加えても、その内容が「強い主張」であればあるほど、大統領の支持者は「強いポジショントークで攻撃された」ことで、かえって大統領の発言を信じてしまうか、少なくともメディアの批判的な論調に反発してしまうという問題があります。

またどんなに根拠のない話でも、そしてその扱いが批判的な紹介になっていても、時事問題に詳しくない視聴者などは、騙されて信じてしまうということもあるでしょう。さらに、この日の場合が典型的なのですが、より重要なはずのニュースがきちんと報じられなかったという問題もあるように思います。

そう考えると、この種の話題に関しては、扱いを小さくするとか、スルーするという選択もあるのではないでしょうか。ちなみに、日本での報道は扱いが小さかったようですが、事態を距離を置いて見ることができていることの証明であり、良いことだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルへの報復ないと示唆 戦火の拡大回

ワールド

「イスラエルとの関連証明されず」とイラン外相、19

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、5週間ぶりに増加=ベー

ビジネス

日銀の利上げ、慎重に進めるべき=IMF日本担当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ公式」とは?...順番に当てはめるだけで論理的な文章に

  • 4

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 5

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 6

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 7

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 10

    あまりの激しさで上半身があらわになる女性も...スー…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 5

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 8

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story