コラム

バス事故頻発の背景にある「日本式」規制緩和の欠陥

2016年01月19日(火)16時20分

規制緩和が過当競争を引き起こし、バス事故の頻発につながっているという批判が出ている Juergen Sack-iStock.

 先週の軽井沢スキーバス事故の後、安い運賃で運行しているツアーバスの事故が頻発していることを受けて、規制緩和が誤りだったという声が出ています。中には、こうした規制緩和がアメリカ流の「拝金主義」や「新自由主義」による人命軽視の思想から出ているという批判や、あらためて官庁による強い規制を復活させるべきだという声もあるようです。

 では、規制緩和は誤りだったのでしょうか? 市場の購買力が下がって格安運賃へのニーズが高まる、その一方で中高年労働力の市場でも価格破壊が進行するという現状の流れの中では、違法な安値競争が起こるのは「市場原理としては仕方がない」ので、あらためて政府の検査体制を拡充するしかないのでしょうか?

 ここに「日本式」の規制緩和の問題が横たわっています。例えば、小泉内閣の時代に、様々な業種での規制緩和が進行した際には、「政府が何もかも介入するのは間違いで、これからは消費者が賢くなるべきだ」といった議論がありました。そして、当時の世論は「岩盤規制の愚かさ」に怒っていたので、その種の議論が説得力を持っていたのです。

 ですが、このような一方的な規制緩和というのは日本独特のものです。「本家」扱いされているアメリカでは、そこまで無責任な考え方にはなっていません。

 規制緩和を進め、政府の監督体制を簡素化する場合には、商品販売の場合はその品質を、また輸送機関の場合は安全確保や定時性の確保などを「保証する」システムがなくてはなりません。規制緩和をする、つまり「小さな政府」によって社会を動かしていく場合には「行政以外のチェック体制」が必要となります。

 それは「民事裁判制度」です。民間の活動の中で、一方が他方によって損害を被った場合には、民事裁判に訴えて、判決なり調停を受けて紛争を解決する、そしてその解決策には強制力が伴っているのです。

 例えばアメリカの場合は、「懲罰賠償制度」というものがあり、民間のトラブルであっても一方に大きな過失や故意が認められる場合は、金銭的なダメージの保障という額を遥かに超えた巨額の制裁を科すことがあります。これは、被害者を救済するためというよりも、そのような過失や故意による被害の発生を「未然に防止する」よう誘導することを狙ったものです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 10
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story