コラム

米共和党「シリア難民拒否」の根底にある孤立主義

2015年11月19日(木)17時35分

共和党の外交方針の基本は「欧州のトラブルには距離を置く」孤立主義(写真は先月末の候補者テレビ討論会) Rick Wilking-REUTERS

 先週末のパリ同時テロを受けて、週明けのアメリカでは「共和党知事によるシリア難民拒否」が大きな議論になっています。全米50州のうち31州の知事が「自分の州ではシリア難民を受け入れない」と表明し、そのうち30州が共和党知事なのですから、これは顕著な動きです。

 特に私の住んでいるニュージャージー州では、大統領候補でもあるクリス・クリスティー知事(共和党)が、「5歳の孤児であっても受け入れない」と宣言しており、大変な物議を醸しています。

 こうした動きに対して「まず1万人の受け入れを行う」としていたオバマ大統領はカンカンです。「孤児や寡婦にまで恐怖心を抱く心理は異常」、「ISILにとって兵士募集のプロパガンダとして、これ以上に有効なネタがあるだろうか?」と最大限の表現を使って非難しています。

 では、どうして共和党はそこまでハッキリ拒否の姿勢を示したのでしょうか?

 1番目としては、共和党の外交政策としての「孤立主義」があります。第一次大戦においても、また第二次大戦の際にも、共和党は当初は強硬に「参戦反対」、「局外中立」を叫びましたが、そうした姿勢の背景には「ヨーロッパの混乱に巻き込まれたくない」という強い心情がありました。

 今回のパリ同時テロに対する、アメリカの保守の深層心理にはこの伝統が作用していると考えられます。その以前から続いている、南ヨーロッパを中心とした「難民危機」に対してもそうですが、とにかく「欧州のトラブルには距離を置く」というのが、共和党的な孤立主義の原点であり、今回の反応もそこから来ているという考え方をする必要があります。

 2番目には、共和党の党是にある「小さな政府論」というのは、徴税や歳出のコンパクト化だけでなく、連邦政府の権限を「小さく」するという政治哲学でもあるからです。ですから、オバマ大統領が連邦の政策として、各州に「難民受け入れ」を「押し付けて」くることに対して、州の「自治権を守る」というのは、共和党にとって自然な反応というわけです。

 この点に関しては、国として決定した「戦争難民の受け入れ」を、各州レベルで法律上は「拒否できない」という説もあり、大統領がAPEC首脳会議から戻った後には激しい論争になりそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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