コラム

共和党候補カーリー・フィオリーナの政治的資質

2015年10月02日(金)16時35分

 ですが、コンパック統合後の巨大化したHPでは、思うように利益体質に脱皮させられず、フィオリーナは2005年に、ドラマチックな解任劇の結果、退任しています。その後の2010年に共和党からカリフォルニア州選出の上院議員選挙に出馬、リベラル派の象徴的な大物議員であるバーバラ・ボクサーという現職に挑んだのですが、惨敗に終わっています。

 一言で言えば、この人は「理念型、ビジョン型」の指導者ではなく、ビジネスでも政治でも「上」を目指して戦っていく「闘争型」の人物だということが言えます。財界雑誌の「フォーチュン」などは、その辺りが「お気に召さない」ようで、ルーセント時代の販売倍増の背景には「販売先への過度の融資枠保証」があったという暴露をしていますが、そのような手段を選ばない販売手法というのは彼女らしいとも言えます。

 HP時代には何と言ってもコンパックの買収を進めました。しかし結果として、PCは価格破壊してコモディティ化していきました。同じくHPが収益の柱としていたプリンターも、マシンの価格を破壊する代わりにインクの継続販売で収益を得るという構造に邁進しましたが、結果は芳しくありませんでした。悪く言えば、ITの高度化によるデフレを生み出した張本人だとも言えます。

 ですが、彼女としては「その場、その場の勝負」に全力で「勝つ」ことしかない、そんな「走り方」をしていただけだと思います。そんな中で「IT化が進むとデフレが起きる」ということ、その果てには「無料サービスの裏に収益活動を埋め込む(グーグル)」とか「超高付加価値で勝っていくしかない(アップル)」というような21世紀型のビジョンがなくては「勝てない」ということには思いはいたらなかったのだろうし、そういった未来予測や理念の話にはそもそも適性はないのでしょう。

 このように「何でも勝ち負けの話」にして、必死で戦っていくというのは、アメリカの「開拓者精神」ひいては保守カルチャーに通じるものがあります。上院議員選挙に出た時も、自身のガン闘病経験を踏まえて「現職のボクサー議員は怖かったけれど、自分がガンのキモセラピー(理学療法)をやってからは怖くなくなった」などと発言していましたが、そういう「ギリギリの部分での一生懸命さ」というのは、アメリカの保守派の琴線に触れるのです。

 そのフィオリーナは、中絶問題の絡みでベイナー下院議長を辞任に追いやった、「中絶容認NGO」の「プランド・ペアレントフッド」への容赦のない攻撃に余念がありません。また麻薬問題では、娘を乱用で亡くした経験に基づいて「医薬用のマリファナも許さない」という厳格な姿勢で保守派の支持を得ています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ウクライナ首脳、日本時間29日未明に会談 和平巡

ワールド

訂正-カナダ首相、対ウクライナ25億加ドル追加支援

ワールド

ナイジェリア空爆、クリスマスの実行指示とトランプ氏

ビジネス

中国工業部門利益、1年ぶり大幅減 11月13.1%
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それでも株価が下がらない理由と、1月に強い秘密
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    「アニメである必要があった...」映画『この世界の片…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    2026年、トランプは最大の政治的試練に直面する
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story