コラム

東京五輪まで「5年しかない」現実

2015年01月06日(火)12時47分

 新しい年が明けました。2015年がやってきたということは、2020年の東京オリンピック開催まで残り5年(と半年)になったことを意味します。ですが、この年末年始の様々な議論、そして新年の報道などを見ますと、東京五輪への関心は決して高まっていないようです。危機感を感じずにはいられません。3点指摘したいと思います。

 第1は、開催国として立派な成績を収めるためには選手が育成される、そのために競技人口の裾野を拡大したり、競技種目への関心を高めたりすることが必要です。

 例えばですが、今年の「箱根駅伝」では青山学院大が素晴らしいタイムで初優勝して話題になりました。当然メディアでの扱いも大きかったようですが、その中で「男子の長距離走がこれだけ盛り上がっている」という延長線上に「日本男子マラソンの復権」というストーリーを描いて、2020年をイメージするような報道はほとんどなかったようです。

 一部に「過酷な駅伝が選手を潰す」という意見があり、駅伝とマラソンは全く別物と考える風潮もあるわけで、私もその意見を全く無視するつもりはありません。ですが、過去には瀬古利彦氏など駅伝の経験をマラソンのキャリアに結び付けた例もあるわけで、駅伝とマラソンを厳格に分けて考える必要はないと思います。駅伝の盛り上がりを男子マラソン(あるいは1万メートル)などの五輪選手の養成、あるいは五輪競技への期待感に結び付けなくてはもったいないと思ったのです。

 また日本の「お家芸」である男子体操に関しては、もしかしたらスーパースターの内村航平選手が年齢の壁に挑戦しながらチームを牽引して「団体優勝」を狙っていくというストーリーはあります。ですが、そのストーリーが成立するには、内村選手以外に若い才能がどんどん出てこなくてはダメなわけで、そうした動きを盛り上げていくことも必要でしょう。

 なかにはバスケットボールのように、競技団体の一本化がすぐにできないために、参加自体が危ぶまれているような問題もあるわけで、これは論外だと思います。開催国として立派な成績を挙げるために、もう時間はあまり残っていません。

 2つ目は五輪と経済の問題です。中国の不動産バブルは北京五輪の開催中に崩壊していますし、W杯と五輪開催はブラジル経済には相当な負担になっているようです。またロシアが現在陥っている危機は、ソチ五輪を強行したことも相当に影響しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請5000件減の20.7万件 予想

ビジネス

ECB、インフレ抑制以外の目標設定を 仏大統領 責

ビジネス

訂正-メルセデス、中国パートナーとの提携に投資継続

ビジネス

ホンダ、カナダにEV生産拠点 電池や部材工場含め総
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 7

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story