コラム

東京五輪まで「5年しかない」現実

2015年01月06日(火)12時47分

 要するに真の需要喚起、実体経済の浮揚に「結びつかない」形で、五輪関連のインフラ整備に突っ込んで特需経済を作っても、結局は巨大な反動減に苦しむことになるわけです。2020年の東京がそうならない、つまり五輪を成功させることが、その後の日本の経済発展にプラスになる、そうした観点から五輪関連の投資を計画していかねばならないと思います。

 その意味で、東京都の舛添知事によるコストの見直し作業は、もちろん不可避であるわけですが、同時に「五輪後の実体経済浮揚」というリターンが望めるものについては、思い切って投資をしていく、そうでないものは思い切ってカットしていくという「国家経営、都市経営」的な観点での議論も必要と思います。その点に鈍感でいいような余裕は日本経済にはありません。

 3つ目は、五輪を契機として日本はどんな「スポーツカルチャー」を目指すのか、五輪というものにどんなメッセージを託すのかという問題です。私は、一時期の民主党が言っていたように「トップアスリートより裾野拡大」というような妙な議論には与しません。頂点を高めるには裾野拡大は必要ですし、裾野が拡大すれば頂点は高まるからです。

 問題はそうした無意味な論議ではなく、スポーツ文化の中に残る、パワハラ、セクハラ、先輩後輩の陰湿なリーダーシップといった課題を、五輪を契機に日本社会がどうやって克服していくのかということだと思います。

 今回の五輪に関しては、招致に当たってJOCと日本政府は「世界におけるドーピング検査体制普及への貢献」や「世界におけるスポーツ指導者養成のインフラ普及」など、世界的に貢献することをアピールして、これが招致決定の大きなファクターになったようです。同様にスポーツという文化を普及する上でのメッセージは国内にも向けられるべきであり、それはドーピングや指導者養成といったトピックに加えて、旧態依然としたヒエラルキー文化を克服する活動になるべきだと思います。

 どうしてスポーツにおけるヒエラルキー文化がダメなのかというと、それは暴力事件を誘発するからだけではありません。コミュニケーションの沈滞、自発的モチベーションやメンタルスキル養成技術の沈滞、そしてスポーツ医学の活用や、トレーニング技術の遅れなどを招き、結局は裾野拡大や頂点の引き上げの足を引っ張るからです。

 以上3点を含めて、2020年東京五輪を成功させるための議論と行動は待ったなしだと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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