コラム

愛国歴史教育に対する「米高校生の異議申し立て」が勝利した日

2014年10月14日(火)12時03分

 最近の各国の保守主義の運動には「自国の歴史に誇りを持てるような教育」へと、歴史教育を改変するという志向があります。アメリカも例外ではありません。例えばブッシュ時代の「草の根保守」の復権を契機として、ハッキリとそうした運動が立ち上がっています。

 そのリーダー格といえば、リン・チェイニー氏です。チェイニー前副大統領の夫人ですが、歴史家というより文学者という立場で「愛国歴史教育」を推進していたのです。

 チェイニー氏はまず「建国の歴史」に関して「トーマス・ジェファーソンの理想主義とか、権力への牽制」といったエピソードではなく、「独立戦争の苦しい戦いを勝利に導いたワシントンの勇気」を前面に出して教えよとか、ベトナムや公民権の話ばかり教えるのはバランスを欠くなどという主張を「運動」にしたのです。

 更にチェイニー氏の前にフランシス・フィッツジェラルドというジャーナリストは79年に出した『アメリカ史の改善(America Revised)』という本で、「歴史教育では、紛争や対立のことを教えるのではなく、権威の尊重や、社会的合意の尊重を教えるべき」というまるで、日本の道徳教育論や中国の愛国教育のような主張をしていました。こうした考え方も現在の「保守的な歴史教育観」の中に引き継がれています。

 アメリカの場合は、全国統一の教科書検定という制度はなく、カリキュラムに関しては、連邦政府は「ナショナル・スタンダード」という緩やかなガイドラインを持っていますが、細かな教育内容に関しては学区に任されています。

 そこでこうした「保守運動」としては各学区をターゲットとすることになりました。アメリカの場合は、学区ごとに教育委員が公選され、その教育委員がプロである教育長を専任して、日々の教育活動はその教育長に委任するというシステムです。

 ですから、保守勢力としては堂々と「教育委員」に保守系候補を送り込んで、各学区の教委における多数派を獲得する作戦に出ることになります。そんな中で、コロラド州ジェファーソン郡(生徒総数8万5000人)では、昨年11月の選挙で保守派が教育委員会の多数を占めると、早速歴史教育の「変更」に着手しました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

ニュース速報

ビジネス

アマゾンが気候フレンドリープログラム、持続可能な製

ワールド

ベラルーシのルカシェンコ大統領が就任式、事前予告な

ビジネス

資金繰り支援策、必要なら期限延長「十分ありうる」=

ワールド

日中首脳が25日夜に電話会談へ=関係者

MAGAZINE

特集:コロナで世界に貢献した グッドカンパニー50

2020-9・29号(9/23発売)

新型コロナで企業フィランソロピーが本格化──利益も上げ、世界を救うグッドカンパニー50社を紹介

人気ランキング

  • 1

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる模擬攻撃の動画公開

  • 2

    どこが人権国家? オーストラリア政府がコロナ禍で留学生らを排斥

  • 3

    なぜ日本は「昭和」のままなのか 遅すぎた菅義偉首相の「デジタル化」大号令

  • 4

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船…

  • 5

    台湾・蔡英文総統、菅首相と電話会談予定せず 森元首…

  • 6

    2020年ドイツ人が最も恐れるのは......コロナではな…

  • 7

    シンガポール、新型コロナ死亡率が0.05%と世界最少…

  • 8

    アフリカで外国による軍事基地建設ラッシュが起きて…

  • 9

    安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッ…

  • 10

    米科学誌が初めて特定候補支持を表明、「事実に基づ…

  • 1

    安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッポン

  • 2

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる模擬攻撃の動画公開

  • 3

    権威なき少数民族にはここまで残酷になれる、中国の「特色ある」民族差別

  • 4

    拡張主義・中国の「武力」を4カ国連携で封じ込めよ

  • 5

    どこが人権国家? オーストラリア政府がコロナ禍で…

  • 6

    韓国の世代間格差と若者の怒り

  • 7

    2020年ドイツ人が最も恐れるのは......コロナではな…

  • 8

    金正恩が「飲み会で政策批判」のエリート経済官僚5人…

  • 9

    親の過干渉が子どもの幸福感を下げる

  • 10

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船…

  • 1

    安倍首相の辞任で分かった、人間に優しくない国ニッポン

  • 2

    中国・三峡ダムに過去最大の水量流入、いまダムはどうなっている?

  • 3

    【動画】タランチュラが鳥を頭から食べる衝撃映像とメカニズム

  • 4

    中国人民解放軍、グアムの米空軍基地標的とみられる…

  • 5

    反日デモへつながった尖閣沖事件から10年 「特攻漁船…

  • 6

    1件40円、すべて「自己責任」のメーター検針員をク…

  • 7

    撃墜されたウクライナ機、被弾後も操縦士は「19秒間…

  • 8

    米中新冷戦でアメリカに勝ち目はない

  • 9

    アラスカ漁船がロシア艦隊と鉢合わせ、米軍機がロシ…

  • 10

    太陽の黒点のクローズアップ 最新高解像度画像が公…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集 グローバル人材を目指す Newsweek 日本版を読みながらグローバルトレンドを学ぶ
日本再発見 シーズン2
CCCメディアハウス求人情報
定期購読
期間限定、アップルNewsstandで30日間の無料トライアル実施中!
Wonderful Story
メールマガジン登録
CHALLENGING INNOVATOR
売り切れのないDigital版はこちら
World Voice

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

絶賛発売中!