コラム

最終局面に来た大統領選

2012年11月02日(金)12時02分

 ここニュージャージーは、まだまだ停電している地区が多い一方で、沿岸部では相当な犠牲者が出ているようで、混乱が続いています。そんな中、歯に衣着せぬ言動で鳴らすクリス・クリスティ知事(共和党)の危機管理については評価が高まっています。

 31日の水曜日には、最も被害の深刻であったアトランティックシティーを、オバマ大統領が視察しましたが、クリスティ知事とは「この日ばかりは政治休戦」ということで、お互いに抱き合い、手を取り合って共に被災者へのサポートを誓っていました。

 勿論、そこには大統領選のポリティクスは歴然としてあり、こうした被災地では「良い人というアピール」が最も重要だということを、双方が分かっているわけです。被災地に来てまで党派的な対決姿勢を見せてしまっては、品格という面でマイナスになるからです。

 とにかく、ニュージャージーでのオバマとクリスティは、滅多に見られない「超党派的光景」を見せていたのです。私が驚いたのはオバマがスピーチで熱心にクリスティをほめたシーンです。「知事のリーダーシップはエクセレントだ」というところまでは、政治的リップサービスの範囲内でしょうが、これに加えて「アグレッシブで素晴らしい」という表現が飛び出したのです。

 文脈上、明らかにポジティブな意味であり、オバマは通常は「小さな政府論」の権化である共和党の「宿敵」が、アグレッシブ(ここでは果敢なまでに積極的という意味)だと本心から評価しているということを、明かしてしまったのでした。

 私は、そこに「自分には出来ない」という弱気のニュアンスも微妙に感じられて「おや?」と思ったのですが、それはそれとしても、そんなオバマの「お人好し」なところが、彼のカリスマの一端なのかもしれません。

 いずれにしても、非常事態の続いている、ここニュージャージーでは大統領選と言われてもリアリティーがあまりないのです。

 そうは言ってもアメリカは広いわけで、オバマはこのニュージャージー視察を終えると中断していた選挙戦に復帰。ロムニーとアイオワ州でお互いに「最後のお願い」に余念がありません。

 現在のところ、オハイオではオバマの優位は崩れずに来ているようで、ロムニーは、オハイオ抜きでの勝利の可能性、すなわち、フロリダの勝利を前提に、バージニア、ウィスコンシン、ニューハンプシャーを取り、ネバダとアイオワを足して、マジックナンバーである「選挙人数270」に持って行こうということのようです。

 その選挙戦ですが、ニューヨークやニュージャージーなどの被災地では「お上品」に行くしかないのですが、通常の時間の流れている中西部では、やはり非難合戦が主流のようです。

 オバマ陣営からは、ロムニーについて「公的資金注入を含む計画的な破産法適用をやって自動車産業を守った自分(オバマ)の政策を批判しているのは許し難い」という批判が続いています。 一方で、ロムニー陣営は「中絶と同性婚に公然と賛成するオバマ」への批判を繰り返すということで、保守票の掘り起こしに躍起です。

 ただ、この最終局面に来ても「オバマはイスラム教徒の子供で、出生地もアメリカ国外」であるとか「ロムニーの宗教は少数派で異端」などという品のない人格攻撃に関しては、お互いに全く踏み込んではいません。その意味で、選挙戦としての品格は保たれているように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 7
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 8
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 9
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 10
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story