コラム

日本の「世代間対立」に出口はあるのか?

2012年03月30日(金)13時07分

 野田内閣が消費税率アップへと決意を深める中で、連立政権を構成する国民新党は、税率アップに反対を貫いて連立から離脱するのか、残留するのかで、分裂の様相を呈してきました。一見すると、永田町の醜い政争の一種に見えますが、税率アップに反対の亀井代表と、賛成に回ろうとしている下地氏などの綱引きの背景にあるのは一種の世代間対立だと思われます。

 消費税率アップというのは、所得税とは違って、現役世代にも年金生活世代にも共通の負担を強いるものですが、今後に劇的な収入増や資産増の期待できない年金生活世代には、負担感や不安感が強く感じられるわけです。一方で、国家の財政破綻や通貨の大幅下落による社会の混乱というような何十年も先にあるかもしれない危険性については、高齢者にはダイレクトな危機感は薄いのです。

 これは、小沢グループの姿勢にも当てはまる一方で、例えば現役世代の利害を代表している大阪の橋下市長が増税に前向きであるのも、こうした構図からの説明は可能です。

 世代間対立というと、引退世代と現役世代の対立だけではありません。今大変に大きな問題になっている原発再稼働については、例えば小さいお子さんがいて、お子さんの健康への影響に関する直感的な危機意識を前提として持ってしまう世代は再稼働絶対反対になるのは仕方がないようです。一方で、10代から20代前半の進学や就職の問題に直面したお子さんを抱えている層は、エネルギー危機と円安に挟撃されて日本経済が大破綻しては困るわけで、この問題へのトーンは違って来るようです。

 先程申し上げた橋下市長の場合は、経済政策はグローバリゼーション適応推進の構造改革路線であるのに、エネルギー政策は脱原発なわけで、一見すると節操のないポピュリズムの極致に見えます。ですが、橋下市長には10代のお子さんもいれば、まだ幼いお子さんもいるということを考えると、構造改革プラス脱原発という組み合わせも、良し悪し以前の問題として、恐らくは自然な発想としてあるのだと思います。

 いずれにしても、日本という社会は、人口ピラミッドが上にひろく下にせまい「倒れそうなカタチ」をしていることに加えて、産業構造の急速な変化に直面しているわけで、こうした世代間対立というのは避けることはできません。そうであるのならば、見えないところで陰湿な対立を続けるよりは、もっとシャープな対立に持って行って論点を整理することがあってもいいように思うのです。

 この問題に関しては、高齢者の多くが「たまたま日本経済が好調な時代」に現役であったというだけで資産を築いているのは不公平だという議論があります。ですが、彼等の多くは健康面の不安を抱えていますし、高度成長やその後のバブル前後の激しい経験から来る疲労感を今でも抱えているように思います。彼らがそう簡単には世代間の富の移転には応じないということには、一理はあるように思います。

 その一方で、一部の高齢者の間にある、自分の死後の日本については「少子化でも良いじゃないか」「経済活動が縮小してもいいじゃないか」という考えには違和感を感じます。貧しくても自給自足で自然と共生できれば、それで良いのであって、自分が死んだ後の日本には美しい自然が残ればそれでいいという感覚は、様々な形で現在の日本にはあるように思います。

 ですが、私はこうした発想はファンタジーだと思います。国が貧しくなるということは、人々を生きるためには手段を選ばないところへと追い詰めるのです。エネルギーが作れず買えない中では、美しい自然の維持も難しくなるでしょう。人々の幸福感は低下するに決まっています。国際競争力の維持もできません。多くの人間が有機農業と伝統工芸に従事して、人口は5000万に減ったけれども、みんながニコニコしているような社会というのは有り得ないと思います。

 それはともかく、政局は流動的になって来ました。すぐにも解散があるとは思えない一方で、多くのグループによる駆け引きは激化するでしょう。その中で、この世代間の対立という問題を、1つの軸として追いかけてみれば、対立の構図が浮かび上がってくるように思います。

<お知らせ>
ブログ筆者の冷泉彰彦氏が、今日と明日メディアに出演します。
*今日30日(金)21時~「ニコニコ生放送(ニコニコ論壇)」で、「上から目線」をテーマに、法政大学講師の金田淳子氏と対談します。
*明日31日(土)22時~NHK-BSの「地球テレビ100」で日本のハイテク産業の競争力についてお話します。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相が米国へ出発、「我が国の立場踏まえしっかり

ビジネス

米2月PPI、前月比+0.7%に加速 サービスが押

ビジネス

EUが新興企業育成支援案、最短48時間・100ユー

ワールド

米ビザ保証金、12カ国追加 対象50カ国に拡大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 6
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 7
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 8
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    「危険な距離まで...」豪ヘリに中国海軍ヘリが異常接…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story