コラム

スーパーチューズデー直前の共和党、どうしてロムニーでまとまれないのか?

2012年03月02日(金)12時35分

 来週の火曜日、3月6日は今回2012年の大統領選にとっての「スーパーチューズデー」になります。前回の2008年の場合は、予備選がかなり前倒しになり、カリフォルニア州とニューヨーク州という巨大州(代議員数も圧倒的)を含む予備選集中日としての「スーパーチューズデー」は2月上旬にありましたが、今回は伝統的な3月に戻りました。

 ちなみに今年の場合は、ニューヨークとカリフォルニアの予備選は、もっと後に設定されているのですが、宗教保守派と中道が均衡しているオハイオ州など、重要な州がたくさん含まれているのでやはり「スーパー」な一日になりそうです。では、現時点での情勢はというと、先週までの流れでは、サントラム候補がサプライズ的な勝利を続けていたのですが、今週もロムニー候補の勢いは戻っていません。

 今週の火曜日(2月28日)には、ミシガン州とアリゾナ州での予備選がありました。1月の序盤の時点では、ここでロムニーが圧勝することで、他の候補は資金的にも厳しくなるだろう、その結果として3月の「スーパーチューズデー」では大勢が決まるのではと思われていたのです。

 というのは、この両州でのロムニーの圧勝を疑う人間は1月の時点ではほぼ皆無だったからです。何と言っても、ミシガンはロムニーの故郷ですし、奥さんも同じくミシガンの出身、しかもロムニー候補の父親というのは、ミシガン州の知事だった「地元中の地元」だからです。

 ちなみに、ロムニー候補には3つの地元があると言われてます。出身地であるこのミシガン州と、ロムニーが属するモルモン教の本拠のあるユタ州とその周辺、そして知事を務めたマサチューセッツ州とその周辺です。今回ミシガンと同時に予備選のあった、アリゾナはユタに近くモルモン教の信者も多い地区ですから、この2月28日の2州というのは「2つの地元」であるわけで、圧勝が予想されるのは当然でした。

 結果的にはその2つの州でロムニーは負けはしませんでした。ですが、2位のサントラム候補との差は、ミシガンで41%対38%の僅差という予想外の低迷、アリゾナでは47%対29%とミシガンよりはましですが、過半数は取れていません。更に翌日29日のワイオミング州党員集会でも、勝つには勝ちましたが39%対32%という結果です。

 来週のスーパーチューズデーでは、ジョージア、オクラホマ、テネシー、ミシシッピ、といった南部、そして全国的な意味で「本選での決戦場」として注目されるオハイオなどでは、このまま行くとロムニーは苦戦する可能性が濃厚です。

 ここまでロムニーが苦戦するというのには、どういった要因が考えられるのでしょう? まず確定申告結果を公表したことから「上位1%の億万長者」だというバッシングを浴びたこと、これをまだ引きずっているという点があると思います。その一方で、デトロイトの衰退に苦しむミシガンで「オバマのGM、クライスラーへの公的資金注入は誤りだった」と繰り返し言ってしまう「バカ正直さ」というようなキャラクターの問題もあるかもしれません。

 ですが、最大の問題は共和党が「オバマに挑戦するための争点」を見失っているということにあるように思います。2012年に入って、例えば今週もそうであったように、アメリカでは雇用統計もGDPも堅実に改善しつつあるのです。これを受けて、株価もかなり安定してきており、何と言っても今週はナスダックが3000ドルの大台に乗せています。

 オバマとして「もしかしたらアキレス腱になるかもしれない」と思われたイランやシリアの問題についても、ここへ来て北朝鮮の核開発停止交渉に成功、中国の習近平副主席との会談もうまく行ったことなどから、湾岸での抑止力を政治的にも軍事的にも確保しているように見えます。

 勿論、共和党としては「もっとイランには強硬姿勢で」とか「オバマが景気回復を遅らせた」などという批判は続けてきているのですが、ここ数週間の情勢を見ると今1つ迫力に欠けると言うか、今、オバマ政権について「失政」だとして攻撃しても空回りするという雰囲気になっています。

 そこで、共和党の悪い癖が表に出ているわけです。中絶や同性婚をめぐる「自分探し」のイデオロギーを中心の予備選、そうした雰囲気がここのところ濃厚になっているのには、そうした政局のムードがあるように思われます。

 今週は「ロムニー・フリップ&フロップ」なるものがインターネットで発売され、話題を呼んでいますが、これはフリップ&フロップ(ゴム製のパタパタサンダル)の片側に「赤いネクタイのロムニー」もう一方には「青いネクタイのロムニー」の顔を描いて、それを「パタパタ踏んづける」という悪趣味なものです。

 この「フリップ&フロップ」という言葉には、意見がコロコロ変わるという意味合いがあり、赤は共和党、青は民主党のカラーであることから、ロムニーは左右にコロコロ変わる人間、要するに「真正保守ではない」という主旨があるわけです。顔の下には、妊娠中絶をめぐる穏健論、禁止論のそれぞれの立場に取れるロムニーの過去の発言が記されているというから恐れ入ります。それにしても、ロムニーの顔をパタパタ踏んづけるというのには、呆れるほかありません。

 こうしたグッズが出回るということは、それだけ保守派の「中絶問題をめぐる怨念」が深いとも言えますが、同時にどこか「不真面目」なムードも否定できないわけです。こうした「意味不明の混迷」の中から、どうやって共和党が党勢を立て直すのか、候補の本格的な絞り込みはスーパーチューズデーより更に先になりそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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