コラム

国有化? 公的資金投入? 東電破綻のスキームを考える

2011年04月01日(金)14時22分

 福島第一原子力発電所の事故処理に難航する中、東京電力の経営は一気に厳しい状態に陥っています。3つのメガバンクをはじめとする銀行団から、年度末の3月末に1兆9000億円の緊急融資があったようですが、事故対策の当面の経費、廃炉や冷却遮蔽にかかる長期間の莫大な経費、そして大規模な避難や休業への保障などを考えると、民間企業として現状の延長での存続は無理でしょう。東電に潤沢な内部留保や資産があるといっても、それは事故前の数字上のことであって、大きな資産である福島第一原発は廃棄する方向である一方で、停電による減収などを考慮すればこのままでは破綻すると思います。

 そこで政府は公的資金の投入を考え始めているようです。現時点での報道では形態は出資、その出資比率は50%以下として実質国有化はしない、ただし公的債務保証は行うという方針のようです。簡単に言うと、現在の東電という会社は維持するが、政府が大株主になって間接的にコントロールする一方で、東電自体は存続するので政府が賠償責任を丸々かぶることはない、従って、加害者である東電が消滅したり、責任回避になることはない、そんな考えから出た「案」のようです。

 ちなみに、原発事故に関しては重大な災害の場合などは法律で「免責」が可能で、これが適用されると損害賠償責任は国に行くのですが、それではモラルハザードになるからと、東電を存続させて負担させ、この法律の適用を回避しよう、そんな方針も背景にはあると思います。報道では色々な数字が言われていますが、仮に損害賠償総額が2兆円に達するということにしておきます。

 その一方で、東電の株価は暴落を続けており、3月31日の終値が466円で震災前日の終値2153円から78.4%の下落をしています。簡単に言えば株価は2割になってしまったわけで、3兆5000億弱あった時価総額は7500億まで減ってしまっています。更に本稿の時点では10%程度の下落があり、ほぼ3兆円近い「企業価値」が消えたという見方ができるでしょう。

 ところで、今回の福島第一に関しては「冷温停止」「遮蔽」「燃料棒取り出しまでの安定的な冷却」「燃料棒の安全な取り出しと貯蔵」という一連のプロセスには巨額な費用がかかるのは間違いありません。これも諸説が言われていますが、とりあえず1兆円の経費が必要ということにしておきます。

 こうした巨大企業が経営危機に陥り、政府が救済しなくてはならないというケースは、戦後日本の場合は金融がほとんどでした。金融以外ということでは、アメリカの例で言えば、2008年のリーマン・ショック後に発生したGMなど自動車メーカーへの公的資金注入の例があります。ちなみに、今回の事故と質的には似ているBPの原油漏出事故は、BPの潤沢な自己資金で補償がされることになっており、公的資金注入はありませんでした。

 日米の金融危機やアメリカの自動車産業救済に関して、あるいは日本の場合ですと日航の更生法適用というケースもあったわけですが、今回の東電の問題は、過去のこうした大規模破綻企業のケースとは異なる点が多くあります。列挙してみましょう。

(1)福島第一の処理プロセスの1兆円、損害賠償の2兆円(いずれも仮の数字ですが)の計3兆円は、必ず支払わなくてはならない。GMや日航の従業員の年金支払債務などのように圧縮は不可能。というよりも物理的にも倫理的に全額負担が要求される。

(2)支払いの責任から逃げられないということでは、この(1)はペイオフをやらない場合の金融機関の預かり資産保証に似ているが、業界全体の保険機構など他からカネを持ってくる枠はない。

(3)余りにも急な株価暴落、しかも経営責任が重大なので、3兆円(これも仮の数字、もっと拡大する可能性あり)という投資家の損失部分に関して株主からの訴訟は免れない。少なくとも、このまま100%減資して「株主責任です」というわけには行かない。

(4)「潰して終わり」というわけには行かない。福島第一がどうなろうと、東電は関東地区における給電という社会的責任からは逃れられない。単に給電するだけでなく、計画停電を早く脱却すること、それ以前に送電の安全性、課金の正確性などサービスの質低下は許されない。

(5)東電以外の9電力会社は、原発事故という問題を起こさずに営業を続けており、上場している民間企業である以上、同業他社であるという理由だけで東電の債務の負担をダイレクトに回すわけにはいかない。

 ざっと考えただけでも、過去の金融その他の「大規模破綻」とは性質が違うことが分かります。起こした惨事の代償が大きすぎることと、それでもサービスを続けなくてはならない公益性の大きさという点が異なるからです。

 ということは、余程のアイディアを出さないと、何もかもが「公的資金だのみ」になってゆく危険があるように思います。半端に公的資金を入れて行って、後で色々な問題が膨らんでいよいよ整理するということにでもなれば、投入した公的資金は価値がなくなってウヤムヤになってしまいます。最悪のケースは賠償金と処理費用、株主への補償などで6兆円近いカネが国庫から出ていってしまうわけで、表面的には色々な「見せ方」があるにしても、そうした結末は許されません。

 更に言えば、原発にしても給電事業にしても、社会に取って基幹の産業であり、これを国有化するというのは危険です。放漫経営に陥って政府の債務を拡大するようになるか、あるいは民間にコスト負担が行くか、ロクなことにはならないと思います。

 ですが、今のままでは、仮に今回の事故によって生じた債務をどんなに薄く将来に向けて伸ばしたとしても、東電一社では負担は難しいと思います。代案としては、例えば原発保安基金のようなものを作って、全国の電力料金に上乗せ課金してその基金にカネを集めるという可能性を検討することは考えられます。その基金が長い期間かかって集める資金を根拠にその基金から東電の処理費用を捻出する、そんな形で未来へ向かって全国で薄く広く負担するというのは可能でしょう。

 ちなみに、関東地区への給電サービスという責任については、東電の組織が完全に改革された時点で、例えば福島第一に関係する部分を切り離すなど、分割論議も出てくるでしょう。また、現経営陣の責任論については早晩議論がされ、何らかの責任あるリーダーシップが確立されることは必要に思います。

 その一方で、株主への賠償責任は、処理費や補償金よりは優先順位を大きく下げるべきで、大きな補償というのは難しいと思います。ただ、東電株はニューヨークにADR証券という形で上場しており、大きな国際法務の問題になるので、法的なスキームは慎重に見てゆかねばなりません。そうした問題を総合すると、際限なく公的資金が必要という流れに陥る危険があります。

 ひとつ言えるのは、今回の問題で「国庫負担ゼロ」で乗り切ることは不可能なように思います。ゼロにはできないとして、負担額の先が見えないのは困ります。今回の震災は規模を考えると復興資金は思い切って集めて、新産業を起こして全国の経済を再生するぐらいの構えが必要、私はそう考えています。ですが、東電の処理コストに関しては賠償責任と処理責任を100%果たすのは当然としても、その上での厳しい規律が必要と考えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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