コラム

「核心」習近平が向かう終身独裁者への危うい道

2016年11月08日(火)16時00分

<中国の指導者の中でも最高位の呼称「核心」を自分に対して使わせるようになった習近平は、かつて毛沢東が歩んだ終身独裁者への道を歩みつつある>

 2016年10月27日は習近平にとってかなり重要な1日だった。共産党の機関紙「人民日報」は党の重要会議「6中全会」閉幕を伝える社説の中で、正式に「習近平同志を核心とする党中央」という表現を使った。

「核心」は中国政治の中でとても大きな意味がある言葉だ。中華人民共和国の創建した第1世代の指導者で、独裁者でもあった毛沢東にしてみれば、「核心」の肩書を持つ者は自分一人で十分。ところがその後任者の鄧小平は、自分の呼称に「鄧小平を核心とする党中央」という言い方を使い、さらに後継者として江沢民を指定した後、この称号を江に贈った。しかしその後任の胡錦涛は権威が足らず、江は胡にこの称号を授けなかった。習近平が自分で「核心」の帽子をかぶり始めたことは、彼が「皇帝の夢」へとまたさらに一歩近づいたことを意味している。しかし、この一歩で彼が近づいたのは王の玉座なのか、破滅へ向かう深淵なのか。

 彼は外交ではまるで帝国主義のような横暴な政策を進め、多くの隣国との関係を悪化させてきた。同時に国内の外貨準備高が急減する現状を無視して、ややもすれば数十億ドル、あるいは100億ドルを使ってフィリピンとマレーシアなどの国を「買収」してきた。

【参考記事】香港学生リーダーを捕まえる「邪悪な竜」の長い爪

 以前の香港映画、特にカンフー映画ではよく「大中華」をたたえる表現が使われた。自然と流れ出る愛国主義的感情は全中国を感動させたものだ。中国で改革開放が始まる前の1950年代、大量の中国国民がまだイギリスの植民地だった香港に密航し、親切な香港人はこの難民たちを受け入れた。2008年の四川大地震で、香港の人々は100億香港ドルを被災地域に寄付した。ところが習近平政権が始まった後、中国と香港の対立は激化し、2014年には「雨傘運動」が起きた。最近はこれまでなかった「香港独立運動」の動きも現れている。

 習近平は台湾問題でもかなり失策を犯している。台湾に対して手を差し伸べるどころか恫喝を繰り返し、かえって台湾人の憎しみを激化させ、国民党の惨敗を招いた。その結果、台湾は中国からだんだん遠ざかっている。

 中国経済は熱狂的かつ根拠なく楽観的な急成長を経験した後、ついにバブル崩壊の現実に直面しようとしている。ところが習近平が取り組んでいるのは国民の期待する改革ではなく国有企業の強化、さらには計画経済時代への後退だ。

 政治面では、習近平は政敵を「消す」一方で自分の腹心を取り立て、民間の反体制派を厳しく弾圧してきた。ある程度大胆な人々さえ、今は習近平の力を恐れてだんまりを決め込んでいる。もともと習近平の政治改革に期待していた知識人は沈黙し、習近平は任期にとらわれず続投していいというムードを高揚する文章が絶えず現れている。

 ギリシア神話にナルキッソスという名の美少年の話がある。ナルキッソスは池の水面に映った自分の姿に心を奪われて離れられず、最後はやつれて死ぬ。そして死んだ後、水仙に変わる。習近平は今、自分の皇帝姿にうっとりして、水辺から離れることができない。彼はおそらく毛沢東の後継者の中で、最も終身独裁者になる可能性がある人物だ。ただし、中国共産党の最後の指導者になる可能性もある。独裁で始まり、その崩壊で終わる――独裁者の水仙は美しいだろうか?

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏「良識働けば協議で戦争終結」、 交渉不調

ワールド

米ポーランド首脳会談、ウクライナ情勢など巡り協議へ

ビジネス

米労働者の家計不安増大、8割近くが経済に懸念=米銀

ワールド

訂正-プーチン氏への「メッセージなし」、決定を待つ
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 9
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story