コラム

「生娘」発言はアウトだけど、ツッコミ不在の社会も危険だ(パックン)

2022年04月23日(土)17時00分

専務:ね、ね、激減していた牛丼の売り上げをV字回復させたジョウム君だけど、その秘訣は何なの?
常務:「生娘をシャブ漬け戦略」だね。
専務:おぉい! 大問題発言だ!! 今なんて言った?
常務:生娘を......。
専務:なんだその言い方!悪代官かよ、お前は......。
常務:お主もワルよの~。
専務:いや、俺は悪くない。ねぇ、時代劇大好きなジョウム君だから、無意識に使っているかもしれないけど、女性を蔑視するような表現だよ、それは。 
常務:いやいや、僕はそういう意味で言ったんじゃなく、田舎出身の若い女の子は何も知らないから、都会の男性においしいお肉をおごってもらう前に......。
専務:ストップ! 女性は男性におごってもらうものとか、何も知らないとか、そんな考え方が蔑視だよ! あと、「うぶな女性」と言いたくても、「性体験のない女性」という意味の表現を使っちゃだめだ! 生娘とか言っているお前こそなにも知らない男だね。
常務:そうか。おれ、生息子か......。
専務:そんな言い方ねぇよ! というか、「生息子」という言葉が存在しない時点ですでに警報が鳴ってることに気付いて! 「スチュワーデス」とか、「未亡人」とかもそうだけど、女性にしか使わない表現はアウト! 今の時代の常識だよ。
常務:ふ~ん。

「汁だく大盛り」で解任回避

専務:マーケティングの一環として、どうしても性別、年齢でターゲット層を示したいなら「若年女性」と言おう。
常務:なるほど。若年女性のお上りさんね......。
専務:ストップ! なんだよ、さっきから?! 都会と地方の格差が広がっているなか、地方出身者を蔑視する表現も絶対だめだよ。
常務:お上り様?
専務:いや、敬称の問題じゃない。地方をバカにしすぎだよ。そもそも地方でも牛丼チェーン店はそこら中にあるからね。
常務:ああ、それはそうだ。この間、杉並区にも店舗が出来たらしいよ!
専務:杉並は地方じゃないから!というか、出身地の話はとにかく止めなさい。
常務:わかった。シンプルに「若年女性のシャブ漬け戦略」でいく!
専務:おい。後半も直せ!
常務:「戦略」?
専務:「シャブ漬け」の方だよ!うちの商品は覚せい剤だとでも思っているのか?
常務:いやいや、とんでもない。依存性が高くて、摂取すると中毒になる、ちょっとラリる危険物質だと言っている。
専務:それが覚せい剤というやつ! 商品の例えとしては最悪だよ。牛丼はラリらないし。しかも「シャブ漬け」という、薬物中毒に苦しむ人への心ない、乱暴な言葉遣いもだめだ。やくざかよ、お前は!
常務:いや、悪代官だろ?
専務:やかましい! まあ、この戦略で狙ったのは、リピーター率を上げることでしょう?
常務:そう!
専務:じゃあ、「若年女性の来店率向上戦略」と言おう!
常務:へ? 硬すぎない? 同じ意味でも、ちょっとふざけた表現を使った方が、受講生も喜ぶんじゃないの?
専務:いや、ここはお笑いライブじゃなく、教育の現場だよ。面白さはいらん。先生はふざけない!
常務:すみませんでした。
専務:まあ、このやりとりは、コンプライアンス上で知らなかったことをたくさん知ることができたようだし、結局会場も大盛り上がりだったから、いいよ。
常務:うん。知ることたくさんで、大盛り上がり......。「シルダク、大盛り」だね、牛丼だけに!
専務:だから、ふざけるなよ! もういいよ!

うん。これなら常務は解任されずに済んだのかな。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米ロ、ウクライナ和平への努力継続 ロ補佐官が勢い消

ワールド

トランプ氏、12日にエルサレム訪問の見通し=イスラ

ワールド

ガザ停戦、イスラエル閣議決定後24時間以内に発効=

ワールド

政府・日銀の協定見直し、直ちに必要とは考えず=高市
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国EVと未来戦争
特集:中国EVと未来戦争
2025年10月14日号(10/ 7発売)

バッテリーやセンサーなど電気自動車の技術で今や世界をリードする中国が、戦争でもアメリカに勝つ日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル賞の部門はどれ?
  • 3
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 4
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 5
    50代女性の睡眠時間を奪うのは高校生の子どもの弁当…
  • 6
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 7
    史上最大級の航空ミステリー、太平洋上で消息を絶っ…
  • 8
    米、ガザ戦争などの財政負担が300億ドルを突破──突出…
  • 9
    【クイズ】イタリアではない?...世界で最も「ニンニ…
  • 10
    底知れぬエジプトの「可能性」を日本が引き出す理由─…
  • 1
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレクトとは何か? 多い地域はどこか?
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    赤ちゃんの「耳」に不思議な特徴...写真をSNS投稿す…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    祖母の遺産は「2000体のアレ」だった...強迫的なコレ…
  • 8
    ロシア「影の船団」が動く──拿捕されたタンカーが示…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    更年期を快適に──筋トレで得られる心と体の4大効果
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story