コラム

ローマ教皇「日本は難民を受け入れて」発言が大炎上したけど

2019年12月20日(金)17時00分

ギリシャ・レスボス島の難民キャンプで登録手続きを待つ難民の子供たち Elias Marcou-REUTERS

<これを機に、単純なYESでもNOでもない、議論を深める思考法を試してみない?>

Q:世界の難民を見捨てるつもりですか?

僕はこんな質問をしない。バイアス込みの聞き方で、感情論になってしまうから。でも、例えば誰かに聞かれたとき、日本のみなさんは「はい! 見捨てます!」と答えるのだろうか。

11月下旬に訪日したローマ教皇がミサに先立ち、教会でのイベントに出席して「友情の手を広げてひどくつらい目に遭って、みなさんの国に避難してきた人々を受け入れること」をお願いしたとき、ツイッターは教皇バッシングで炎上した。「ムリムリ!」「カトリックの国々に言え!」などの内容のツイートが殺到し、多くの「いいね」を稼いでいた。「お前は教皇だが、こちらも強硬だぜ!」というノリだった。

この拒絶反応はワシントン・ポスト紙に取り上げられ、海外でも話題になった。少数派の意見かもしれないが、これが世界の持つ日本の印象になりかねない。これがツイッターの怖さ。正しさよりキャッチーさが勝つのだ。

もちろん、280文字のツイートで実り多い議論をするのは不可能だろう。ここでその10倍の文字数をかけても、言いたいことが伝わらない僕だからよく分かる。

例えば、難民の受け入れに関する議論の核心に触れるなら、下記の質問に答えることになる。

Q1:日本は国際社会の一員として責任を果たし、難民の救済や援助に努めるべきですか?
Q2:国際社会と関係なく、日本は独自の判断で難民の救済や援助にできることをやるべきですか?

これらに、無条件でYES! かNO! で答えれば、ツイートとして成立するが、そんなにきっぱり答えられる人、それだけで結論として受け止められる人はどれぐらいいるだろうか。

たとえNOと答えても、その理由も付け加えないと説得力に欠ける。PKO活動や多国籍軍の後方支援、または温暖化対策などにおいては「国際社会の一員としての責任」がよく論じられる。いわゆる保守もリベラルも、国際的な規範や外国からの評価を気にするのだ。難民条約に加盟している日本政府もその責任を正式に認めているのだ。それでもNOですか? なぜですか? と、説明を聞きたくなる。

「はい。それでもNO!」と答える人の中には、国家の主権を超える権威を認めないことを理由に挙げる人もいるだろう。そんな人には「責任」ではなく、日本の国益、価値観や道徳をもって一緒に考えたい。日本は、「絆」や「助け合い」を大事にする、弱者に優しい、強い性格を理想とする文化だ。アフガニスタンで灌漑事業に取り掛かった中村哲さんも称えられる。人に求めるものは、国にも求めるべきではないか? と尋ねてみよう。

また、海外からの評価や評判は日本の国力につながるとされる。日本が世界に好かれる国であれば、武力で他国に自分の意思を押し付ける必要はなく、お金で動かす必要もなく、親日感情だけでも日本にとって有利な方向に動いてもらえるはずだ。自国主義であっても、この「ソフト・パワー論」の観点から難民の救済を考えるべきではないか? と聞いてみたい! 

聞きたいことが聞けないこの状況でストレスがたまる!

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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