コラム

日本は大坂なおみの二重国籍を認めるべき!

2018年09月25日(火)14時45分

では、そんな最高の日本国籍のために、大坂選手が払う代償とはなんだろう。それは、アメリカ国籍の放棄による損失。思い入れや感情は本人にしか分からないから触れないようにするが、それでも厳しい計算になる。まず、国籍がなくなるとアメリカで投票する権利、労働する権利、長期滞在する権利などがなくなる。申請すればもらえるものもあるが、親に付随する形になり、自分の権利じゃなくなる。自分の子供にアメリカ国籍を与える権利もなくなる。つまりアメリカ人じゃなくなり、訛りだけが残る。

もちろん、日本の国籍を放棄しても、同じ権利をなくすことになる。大坂選手にとっては、今まで日本でそれらの権利をほとんど使ってもいないので喪失感は比較的軽いかもしれないけど、それだけの計算だったら、アメリカを捨てて日本を取る可能性が十分あるかもしれない。しかし、それだけじゃない。

制度の違いから、国籍の選択によるダメージが日米で大きく変わる。まず、アメリカ国籍を放棄すると相続税の免除が消えるから、親が亡くなったときに支払う税額がぐんと上がる。さらに、実は国籍を放棄するときにかかる特別な税金がある。Expatriation tax(国籍離脱税)といって、脱税目的の「名ばかり帰化」を抑止するために設置されたものだが、国籍を失う場合、全財産の20%を税金としてアメリカに納めないといけない。いろいろな条件はあるが、大坂選手はたぶんこの税金の対象者になるだろう。日本にも国籍を放棄して海外に移住する人に対する税金はあるが、既に在米の大坂選手にはかからない(さっき税務局に電話して確認したが、担当者は明らかにそんな質問は初めてという様子だった)。

ざっと計算しよう。先日優勝した全米オープンの賞金は約4億円。それだけでも、20%で8000万円の納税額になる。その上、大坂選手の収入はこの先急増し、年間15億円になってもおかしくないといわれる。それに対する税額は相当な数字になる。

どうだろう? あなたなら、住んだ記憶がない国の国籍を持ち続けるために、育った国の国籍を捨て、国籍離脱税の数億円をドナルド・トランプ大統領に渡す? 僕なら、きっと迷う。というか、まだ1回も全米オープンを優勝していない僕でさえ、その選択についてずっと迷っているのだ。

そう考えると、大坂選手は日本のユニフォーム姿でオリンピックに出ない可能性が大きい。しかも、実はオリンピック憲章によると、一度ある国の代表になった選手は3年間経たないと、他の国の代表になれない。ということは、大坂選手はアメリカ人のままでもアメリカ代表になれなく、新国立競技場で見る姿も普段着かもしれない。

犠牲にするものが大き過ぎるからアメリカ国籍を棄てない、と決めたら、日本国籍を持てないし、東京オリンピックにも出られない。大坂選手、かわいそう! 日本のファンもかわいそう! 考えるだけで泣きそう。

ちょっと待って! やり方はあるかもしれない!

今のうちに二重国籍を認めるっていうのはどうですか?

そう。これが本題。お待たせしました! もちろん、大坂選手のために特例を作ってもいいが、せっかくだからもっと広範囲な国籍法の改正を考えてみよう。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国とフランス、「戦略的パートナーシップ」に関係格

ビジネス

イーライリリー経口肥満薬、売上が今年数十億ドルの予

ワールド

ロシアへ経済訪問団派遣を計画との報道、「事実ではな

ワールド

パリ警察が警備強化、爆破未遂受け 一部金融機関は在
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 2
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受給年齢」
  • 3
    破産申請の理由の4割以上が「関税コスト」...トランプ関税が米国民に与える「破産」の苦しみ
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 6
    日本の男女の賃金格差は世界でも突出して大きい
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    先進国が出生数の減少を嘆く必要はない? 「経済的…
  • 9
    「一般市民に敵意なし」...イラン大統領が米国民宛て…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story