コラム

金正恩の狂人っぷりはどこまで本物か?

2017年09月23日(土)11時00分

だから、「北朝鮮は抑止力がほしくて、自己防衛のために動いている」という一般論以外の可能性を考えるべきだと思う。それが狂人理論の応用編。

普通の核保有国ではなく、狂人が仕切る核保有国だとしたら、上記のシナリオと話は違う。「死ぬ覚悟はできている。いつでも核戦争を起こせる」と、常に指を発射ボタンに置いているスタンスが通用すれば、いろいろなわがままは聞いてもらえるはず。北朝鮮が核を放棄しなくても、規制緩和や国交正常化、有利な貿易条件などを要求してくることは目に見えている。

ソウルや東京だけではなく、全世界を人質に取っている状態なら、国際社会へ復帰することなしにアウトロー国家の道を選ぶ可能性もある。いつでも他国を巻き込んで無理心中を図りそうな狂人だと思われれば、幾度も罪に目をつぶってもらえる。偽札製造、麻薬や武器の取引、人身売買などを今まで通りに続けても、さらには核やミサイルの技術を第三国やテロ組織に移転・輸出をしても、どんな反社会的な行動をしても、誰にも取り締まりはできない。

こんな恐ろしい計算が、北朝鮮の動きから垣間見えるかもしれない。正常者は核兵器なんて使わないだろう。しかし狂人ならば分からない。「狂人」だと思われて初めて、核兵器の存在が光る。そんな考えから、狂人だと思われるように、核戦争になりかねないぎりぎりの行動を取る。そう見ると、正常者が狂人を演じ切るのも合理的な判断かもしれない。

果たして、どちらなのか。世界一の狂人なのか、それとも世界一の狂人理論者なのか。どちらか分からないからこそ効果的だし、分からないからこそ怖い。どちらにしても、世界一なのは間違いないだろう。そういう意味で「会えたら光栄だ」とトランプは言ったのかもしれないね。

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プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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