コラム

東芝が悪いのか、アクティヴィストが悪いのか

2021年06月18日(金)09時20分
東芝本社

東芝は本当に赤信号を渡ろうとしたのか Issei Kato-REUTERS

<東芝と経済産業省が結託して、株主総会でのアクティヴィストファンドの行動を封じようとした、という報告書が波紋を広げている。しかし事実はそうではなかったのではないか>

東芝のガバナンス問題がクローズアップされている。

アクティヴィストファンドが中心となって、昨年7月の東芝の株主総会で不公正な運営がなかったか調査すると決定し、さらにそのアクティヴィストファンドが指名した弁護士グループにより調査がなされ、その報告書が先日公表された。

私は、報道された報告書の要旨と、報告書をまとめた弁護士の記者会見での答えが異なっていることを疑問に思い、入念に報告書を読んでみた。

あまりに面白い。

まるで小説のようである。

事実は小説より奇なり、と言いたいところだが、どうも違う。

ほとんどが、この弁護士たちの推測でこの「小説」は展開している。

東芝関係者の膨大なメールをAIで分析抽出し、面白いところを抜き出し、話がつながらないところは、弁護士たちの推測で埋めている。

そういうストーリーであった。

客観的に見て、週刊文春の方が、調査としては、厳密であり、裏をしっかりとってある。この報告書の話は、メールの文言をそのまま引用している部分が多いから、言葉は正しいが、裏付けは一つもなく、また、一部を抜き書きしているため、ここに書かれたものが話の全貌のどれ程を占めているのかがわからない。

権限のある外為法担当者は登場せず

そして、一番話題になっている、東芝と経済産業省が一体となって、アクティヴィストを追い出そうとした、という話(世の中のほとんどの人はそういう話だと理解し、信じている)は、客観的にみると、そうとは言えないのではないか、と思わざるをえない。

なぜなら、経産省の外為法の担当者は、ここには全く登場せず、経産省の人間として大きな役割を果たしたのは、外為法に関してまったく権限がないどころか無関係の情報産業課の一課長が、孤軍奮闘して、東芝のことを思いやってか何かはわからないが、いわば一人のボランティアとして、また一人の健全な日本国を憂う公務員として、動き回っているに過ぎない。経産省の上層部は、東芝の話を一応聞くものの、面倒なことにかかわりたくない、ということであり、外為法を恣意的に運用はできない、ということで一貫している。この課長もそれは認識しており、アクティヴィストファンドへも圧力はかけているが、一公務員として懸念を持たざるを得ない、と自らも言っており、権限を持っている人たちも黙っていないと思う、との推測をファンド側に述べているに過ぎない。

また、メディアでもすでに取り上げられていた経産省の参与は、このアクティヴィストファンドとは別の、普通の機関投資家に自らボランティアで働きかけて、自分には力があること、いいところを見せようとして勝手に失敗しただけであり、東芝から頼まれたわけではない。報告書もはっきり、東芝が頼んだのではない、東芝とこの参与とは関係がないと結論付けている。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米、中国製半導体に関税導入へ 適用27年6月に先送

ワールド

トランプ氏、カザフ・ウズベク首脳を来年のG20サミ

ワールド

米司法省、エプスタイン新資料公開 トランプ氏が自家

ワールド

ウクライナ、複数の草案文書準備 代表団協議受けゼレ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 9
    砂浜に被害者の持ち物が...ユダヤ教の祝祭を血で染め…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story