コラム

東芝 車谷社長の何が悪いのか?

2021年04月15日(木)13時37分
東芝の車谷社長

以前在籍したCVCから4月7日に買収提案があり、14日に辞任した車谷社長 REUTERS/Issei Kato

<「物言う株主」との確執だとか、以前在籍したCVCから買収提案があったというのは、問題ではない。では車谷暢昭社長はなぜ辞任したのか>

不明だ。

以前在籍したCVCから買収提案があったとのことだが、これ自体は不正でもなんでもない。これを自己利害のために優遇し、東芝の企業価値を毀損することがあれば、もちろん大問題だが、むしろ高値で買収してくれるというのは、一つの選択肢であり、この時点では何も悪くない。

「物言う株主」がどうのこうのと、何もわからない日本のメディアは言うが、株主が意見を言うのは当然で普通であり、どういうモノを言うかが問題だ。

今回話題になっているエフィッシモとはアクティビストファンドであり、アクティビストファンドには賛否両論あるし、アクティビストの中にもいいのと悪いのとがいるし、それも立場や見方により評価は異なるであろうが、世界の投資業界の常識として、アクティビストファンドとは、自己のファンドのパフォーマンスのためには何でもやる人々であり、社会のためはもちろん、企業のためや当該企業の株主全般のためにもなるかどうかは、ケースバイケースである。

今回のエフィッシモの東芝への戦いは、現時点では、イチャモンに過ぎない。これは日本の信託銀行業務あるいはそのほか業界のミスであるが、議決権のカウントミスがあったということで、それがあまりにずさんだった、ということだ。

これは東芝に限らず、この1年多くの企業で問題になっており、東芝などの企業側の問題というより、信託銀行や議決権行使に関わるサービス業務を行う業界のその一部の問題である。

議決権問題は関係ない

だから、そのミスがあったところで、それを理由に、臨時株主総会を開いたり、特別調査を行うのは、費用対効果からいってあまりにも行き過ぎであり、企業価値を損なう、コスト増加に過ぎない。

エフィッシモ以外の投資家で賛成した人々が多かった理由は、彼ら海外投資家には、日本の証券市場全体への不信感がもともとあるのと、何かイベントがあれば、株価が上昇するきっかけになりうる、ということで囃している、ということである。

したがって、この件については、賛否はあるかもしれないが、こういうことがあったから、車谷氏が陰謀的に議決権をきちんと扱わず、自己防衛をしたと推測するのは行き過ぎである。

問題は、車谷氏の経営のどこが悪いのか、であり、そこを議論すべきである。

いまのところ報道されているところによると、東芝社内からの不満としては、リストラやコストカットが厳しすぎる、というものであり、社外の投資家、アクティビストたちからの不満は、短期的な株価の上昇よりも、長期的な経営にシフトしており、それに反対だ、ということだ。要は、自分たちの都合を聞いてくれない、ということである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

SHEIN、米事業再編を検討 関税免除措置停止で=

ビジネス

中国中古住宅価格、4月は前月比0.7%下落 売り出

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

米関税で見通し引き下げ、基調物価の2%到達も後ずれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 10
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story