コラム

松本人志「性加害疑惑の真相」を11パターン想定してみる

2024年01月23日(火)20時37分

松本人志は自惚れていた?

あるいは、テレビ番組の構成やキャスティングを差配できるほどの地位と権力を持った松本人志の場合、芸能志望の女性に対しては極めて容易に「断りにくい状況」を作り出せたのかもしれない。

2023年7月の改正刑法施行により、こうした「不利益の憂慮」は不同意わいせつ・不同意性交の原因となりうる行為として明示されている。このあたり、法改正によって人々の意識がアップデートされ、法改正以前の出来事がより一層厳しい目で見られるようになったという意味で、旧ジャニーズの性加害問題と似ているかもしれない。

芸能志望の女性の場合、自分の将来のキャリアと一時の不本意な性行為を天秤にかけた結果、"不同意性交に同意する"という矛盾した事態を飲み込んでしまう人も過去にはきっといたのだろう。「芸能界とはそういう場所だ」と中高年以上の人々が口をそろえて言うのは、このためだ。

「同意とは何だろうか?」と一瞬混乱しそうにもなるが、被害を受ける側(一般的には女性側)の視点で考えれば良いのではないか。「断ったら不利益を受けるかもしれない」という権力勾配の強い関係のもとでなされた同意は、同意とは言えないはず。逆に「受け入れたら見返り(利益)を得られる」という場合は、どうなのだろう。

事前に両者が十分な意思疎通を行った上であれば、そういう「同意」もアリなのかなと思ってしまうが(道徳的には良いことではないとはいえ)、少なくとも今回のケースは当日現場で突然に性的関係を迫られたと書かれている。現場でどんなやり取りがあったとしても、そんな状況で「合意形成は生まれない」と考えるのが普通ではないだろうか。

となると、松本人志が「この女は俺と性行為をすることに同意しているに違いない」と一方的に思い込んでいた、と考えるのがもっとも合理的のように思われる。お礼のメッセージを見て「とうとう出たね」と言い、合意があった証拠かのように捉えてしまう人間である。自惚れていたか、自分勝手な思い込みをしていたと考えるのが、現時点ではもっとも合理的であろう。

芸能人は「イメージ」がすべて

「疑わしきは罰せず」、「無罪推定の原則」といった生半可な法律用語を振り回して松本人志を擁護する人々もいる。一見もっともらしく聞こえるが、これらはあくまで「刑事裁判」に適用される話である。国家が個人に刑罰を課す場合と、芸能人が不祥事を起こして活動自粛に追い込まれるのは、決してイコールではない。仮に文春記事のみを根拠として警察が松本人志を逮捕したら、その場合は私も「疑わしきは罰せず」と叫ぶだろう。

芸能人というのは、「イメージ」によってメシを食っている人々だ。会ったこともないのに「なんか良い人そう」「かっこいい」「かわいい」「真面目そう」などのイメージを視聴者が抱き親近感を抱くという、究極のファンビジネスとも言える。その点がわれわれのような「一般人」とは決定的に異なる。

文春記事によって自身のイメージが崩されたなら、芸能人としての松本人志は記者会見なり動画発表なりで、イメージを回復させるだけの説明をした方が良かったのだが、結局彼は訴訟という道を選んだ。

今後、何か明確な証拠や新事実が提示されない限り、松本人志の社会的イメージはやはり非常に悪いままとなるだろう。どう控えめに見積もっても、酒の席で初対面の女性に対し禍根が残るほどの強い苦痛を与えた、という事実は揺るがないのではないか。

著名人に性加害疑惑が持ち上がった時、私たちはそれをどのように捉え、何を思ったら良いのだろう。公正な裁判がなされることを、願うばかりである。

ニューズウィーク日本版 日本人と参政党
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年10月21日号(10月15日発売)は「日本人と参政党」特集。怒れる日本が生んだ参政党現象の源泉にルポで迫る。[PLUS]神谷宗幣インタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    インド映画はなぜ踊るのか?...『ムトゥ 踊るマハラ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story