コラム

「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由

2024年11月19日(火)07時20分
松本人志

吉本興業の「お知らせ」

<松本人志が代理人を通じて「会見拒否」の態度を表明した。訴訟取り下げによって性加害への疑念と今回の対応への疑問はかえって深まっており、このままテレビ復帰はあり得ない。大阪万博をはじめとする「公共事業」を数多く請け負っている吉本興業にも説明責任がある>

松本人志は11月15日、性加害疑惑について記者会見しない旨を代理人弁護士を通じて発表した。理由については、こう書かれている。

「すでに公表済みのコメント以外の情報発信を行うことは、関係者との協議及びその結果の趣旨・内容に鑑み控えざるを得ません」

何度読んでも、意味が分からない。「関係者」というのは、誰を指しているのだろうか。週刊文春だろうか。だとすると、文春側が「これ以上は情報発信しないで欲しい」と依頼したのだろうか。いや、まさかそんなはずはなかろう。わざとらしく法律用語を散りばめているが、要するに「会見はしません。理由は、したくないからです」と言いたいのだろう。

「虚勢と威迫と逃亡」だけ

横山やすしはダウンタウンの漫才を「チンピラの立ち話」とかつて酷評したが、これまでの流れを振り返ると、松本人志の言動はまさしく「チンピラ」的だった。

SNSで虚勢を張ったあとはスラップ訴訟とも言うべき巨額の賠償請求を行い、さらには探偵を雇って法廷の外で女性を威迫し、最後は敵前逃亡して長年のファンをも裏切った。虚勢と威迫と逃亡。性加害疑惑が報じられて以降、松本人志が行ったのはこれだけである。

訴訟取り下げにともない、被害を訴えている女性たちに対する謝罪らしき文面を代理人が発表したが、あれを謝罪と言えるのかどうかは、意見が分かれるだろう。「私がやったかどうかは分かりません。被害者がいるのかどうかも分かりません。でも謝ります」という二律背反的な不可解なメッセージを、謝罪の言葉と見なすことは困難である。

ネット上では「事前に文春側と文面をすり合わせ、双方合意の上で発表したはずだ」という憶測も流れているが、私はその可能性は低いと見ている。なぜなら、双方がコメントを発表した直後、被害を訴えていた女性は朝日新聞の取材に対し「私は仮定ではなく、実在するので深く傷ついた」と語っており、松本人志のコメントへの不満を吐露しているからだ。

週刊文春にとって、記事の真実相当性を担保する存在である女性たちは、命綱に等しい。それを念頭に置いて考えれば、「直接に示す物的証拠はない」だの「いらっしゃったのであれば」だの、こんな自己弁護にまみれたコメントを文春側が事前に了承していたとは、考えにくい。

ネット上には、双方のコメントをめぐって論理の飛躍した陰謀論的な言説も流れている。週刊文春は事前に相手のコメントを確認し了承していたのかどうか、文春側からも説明して欲しいと思う。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。現在は大分県別府市在住。主な著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHPビジネス新書)、『香港少年燃ゆ』(小学館)、『一九八四+四〇 ウイグル潜行』(小学館)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G20首脳会議閉幕、南アは多国間主義の勝利と評価 

ワールド

米とウクライナ、和平案を「更新・改良」 協議継続へ

ビジネス

FRBの金融政策は適切、12月利下げに慎重=ボスト

ビジネス

米経済全体の景気後退リスクない、政府閉鎖で110億
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story