最新記事
シリーズ日本再発見

インドネシアを走る「都営地下鉄三田線」...市民の足を支える日本の中古車両の行方は?

2023年09月17日(日)09時50分
𠮷岡桂子(朝日新聞記者)

車内にはドリアンの持ち込み禁止と貼り出されている。熱帯の国らしい。巡回する警備員の姿も目をひく。スリ対策であり、乗客が騒いだり床に座ったりしないように注意する役割がある。


日本製の導入の成果は、車両の不足を補うだけにとどまらなかった。冷房が効いた車両はジャカルタの鉄道の風景を変えるのにも一役買った。屋根に上ったりドアにぶら下がったりしていた乗客が消えた。車内が涼しくなったからでもある。

経済成長とともにジャカルタ首都圏は膨らみ続け、郊外からの通勤も増えている。朝夕はラッシュで混み合う。男性との接触を嫌う女性が不愉快な思いをしないように、2010年には女性専用の車両を投入した。

むさしのドリームジャカルタ行き

日本側でKCIとの連携に力を入れている鉄道会社は、JR東日本だ。社員ひとりを出向させ、車両のメンテナンスや部品の確保など技術支援もしている。

18年春、武蔵野線を走っていた205系が「むさしのドリームジャカルタ行き」という行き先を表示して海を渡った。譲渡価格は明らかにしていないが、無料ではない。


2代目駐在員の鈴木史比古を18年2月、ジャカルタのKCI本社に訪ねた。40代半ばの赴任だった。インドネシア語を特訓し、同僚との会話に使えるようになっていた。昼食のお気に入りは本社近くのジャワ料理の店。日本円で200円ぐらいの甘辛い地元料理を食べる。

年間の輸送人数が17年、初めて100万人を突破した。鈴木は「日本から学んで、故障が減ったり車両が扱いやすくなったりしたよと頼りにされると、ほんとうにうれしい」と話す。KCIの社員を日本に派遣し、研修もしている。中古車両はメンテナンスが命だからだ。

日本の鉄道愛好家には、気になる話がある。インドネシア政府の高官は中古車両の導入をやめる方針を幾度となく口にしている。自国の車両メーカーINKAを後押しするためだ。

22年には、INKAとスイスのメーカーの合弁会社がインドネシアで生産した新車を導入する方針が伝えられた。地元紙によれば、25~26年から投入される見通しだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=

ビジネス

ビットコイン一時9万ドル割れ、リスク志向後退 機関

ビジネス

欧州の銀行、前例のないリスクに備えを ECB警告

ビジネス

ブラジル、仮想通貨の国際決済に課税検討=関係筋
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中