最新記事
シリーズ日本再発見

ベンチャーで地方創生、山形の「鶴岡モデル」成功の理由

2018年09月30日(日)11時25分
井上 拓

japan180929-2.jpg

2015年に鶴岡サイエンスパーク内に竣工されたSpiberの本社研究棟

なかでも、NASAも諦めたとされる「人工合成クモ糸」の開発で世界の注目を集めているのが「Spiber(スパイバー)」。研究所の基礎研究からサイエンスパーク内で事業化を進める担い手を代表して、関山和秀代表執行役に話を聞いた。

「サイエンスパークの一員という意識より、まず私たちには、本当に世の中に価値のあることをしたいという考えがあります。社会全体に対して、大きな役割を果たせるのかを常に念頭に置いています」と丁寧に言葉を紡いでくれた。

関山さんは生まれも育ちも東京。それまで山形に縁はなかったという。冨田所長の人柄やビジョンに惹かれ、この研究は自分がやるべきじゃないか、そして実現してみたいものがある、そう考えた。それが、たまたま鶴岡という場所だった。

「いろんな考え方があると思いますが、研究や生活環境という意味では、東京よりも鶴岡はとても過ごしやすく、私にも合っています。渋滞や満員電車もないですし、無駄なストレスを感じない。アイデアを出すにも、気分転換やリラックスできる環境です」と関山さん。

人工合成したクモの糸の繊維がメディアなどでよく取り上げられるが、それはSpiberにとって手法の一つにすぎない。関山さんが見据えている未来は、石油などのいずれ枯渇するエネルギーに依存しない素材の開発による革命。タンパク質を素材として使いこなし、人類のエネルギー問題という社会課題を根底から解決することだ。

「私たちの事業に大きな意義を感じてくれる人たちが、世界中から集まって来てくれています」。今や200人近い社員数になったSpiberは、新しい産業生態系のデザインに魅力を感じ、強い覚悟や共感を持ち、高い満足度で働く人たちばかりだ。地方都市である鶴岡という立地が自然と良いスクリーニング効果を生んでいる。

「本当に地球規模で普及・拡大をさせていこうと思ったら、短期間で決着する話ではありません。我々の強みである基礎研究の開発に注力し、そこで圧倒的なイニシアチブを取り続けられるよう、長い時間をかけてチャレンジしていく。それが結果的に、こうしてお世話になっている鶴岡に還元をもたらすものになればと考えています」

「地方に大学誘致」は珍しくないが、鶴岡の成功には理由がある

代謝(=メタボローム)解析を基盤とした先端的な基礎研究からスピンオフが連鎖し、それらバイオベンチャーの集積によって、鶴岡はまさに産官学連携のエコシステムを形成するに至った。現在は、時間をかけながら機能し始めた成長フェーズと言える。

日本の地方都市に大学が誘致されているケースは多いはずだが、鶴岡モデルの成功は何が違うのだろうか?

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トルコ領空にイラン弾道ミサイル、NATO迎撃 エル

ワールド

EXCLUSIVE-トランプ氏、原油高抑制策を検討

ワールド

トランプ氏、米地上部隊のイラン派遣巡る決定には「程

ワールド

情報BOX:G7、緊急石油備蓄の放出を検討 各国の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    ダイヤモンドのような「ふくらはぎ」を鍛える最短ルートとは?...スクワットの真実
  • 4
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    なぜ脳は、日本的「美」に反応する? 欧米の美とは異…
  • 8
    プーチンに迫る9月総選挙の暗雲
  • 9
    「溶けた金属のよう...」 ヨセミテ国立公園で「激レ…
  • 10
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    核合意寸前、米国がイラン攻撃に踏み切った理由
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中