コラム

駐留米軍への攻撃が急増...ウクライナとガザから緊張が飛び火、シリアで高まる脅威とは?

2023年11月14日(火)14時15分

ウクライナ侵攻の開始と同時期に

こうしてシリアは第二次世界大戦後に数少ない、米ロがともに公式に活動する戦場になった。

こうした経緯のもと、アメリカはシリアのアルタンフに駐屯地を設けた。トランプ前政権は2019年10月、シリア北部の米軍撤退を命じたが、南部のアルタンフ駐屯地はそのまま残った。

これに関してシリア政府は承認しておらず、しばしば退去を求め、それをアメリカが無視してきたという因縁がある。

とはいえ、米ロの直接衝突はどちらに取ってもリスクが高い。そのため、米ロは2019年、不測の事態を避けるため、航空機で相手の軍事施設上を通過しないことなどに合意した。

米軍によると、ロシア軍機の威嚇は昨年3月から急増したという。

だとすると、ちょうどロシアによるウクライナ侵攻の開始とほぼ同じ時期に、アルタンフ駐屯地などでの威嚇行為が増えたことになる。

そしてこの緊張をさらに高めたのが、ガザ危機だった。

ガザ情勢の飛び火

パレスチナのイスラーム組織ハマスが10月7日、イスラエルにかつてない規模の攻撃を開始したが、それにともないシリアやイラクの米軍施設に対する攻撃が急激に増えたのだ。

米国防総省報道官は10月23日、その前週に5度、アルタンフ駐屯地などにドローン攻撃が行われたことを明らかにして、「脅威がエスカレートしている」と警告した。アメリカはこれがイランによるものとみている。

アメリカがイスラエルを一貫して支援してきたのと対照的に、イランはハマスを支援してきた。

これに加えて、イランはイスラエルの北隣レバノンのシーア派組織「ヒズボラ」も1980年代から支援している。

ヒズボラはイスラエルの北隣レバノンの南部に拠点をもち、イスラエルともしばしば交戦してきたが、10月7日のハマスによる攻撃をきっかけにイスラエル攻撃を加速させている。

2011年に始まったシリア内戦の大局が決した後も、イランやヨルダンの国境に近いアルタンフに米軍が拠点を構え続けたのは、「IS残党の掃討」という公式の理由だけでなく、イランからレバノンに至るルート上にあるこの地を監視することがあったとみられている。

危ういバランスのシリア

つまり、ガザでの戦闘激化は連鎖反応的に、シリアやイラクに駐留する米軍への攻撃も増やしている。

この地域の米軍施設を防御するため、米軍は弾道弾迎撃ミサイルシステムTHAADや対地攻撃機A-10の追加派遣を決定し、その一部はすでにペルシャ湾近海に展開している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国SMIC、第4四半期は60.7%増益 予想上回

ビジネス

米関税、ユーロ圏物価を下押し 利下げで相殺可能=E

ビジネス

フランス産ワイン・蒸留酒輸出、貿易摩擦の影響で3年

ビジネス

韓国当局、個人情報流出のクーパンにシステムの脆弱性
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 10
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story