コラム

駐留米軍への攻撃が急増...ウクライナとガザから緊張が飛び火、シリアで高まる脅威とは?

2023年11月14日(火)14時15分
A-10

米軍が中東に派遣したのと同型の地上攻撃機A-10(2019年9月、米クリーブランド) BlueBarronPhoto-Shutterstock

<ウクライナ侵攻、ガザ危機の影で、シリアとイラクに駐屯する米軍への威嚇や攻撃が増えている>


・アメリカと対立するロシアやイランは中東に駐屯する米軍への威嚇・攻撃を強めている。

・シリアに駐屯する米軍にはイランによるイスラエル攻撃を監視する目的もある。

・ウクライナ侵攻やガザ危機はシリアなどでの緊張をエスカレートさせている。

多くの人がほとんど忘れていたアメリカの軍事活動は今、アメリカと対立する勢力の標的になりつつある。

シリア駐留米軍への攻撃

米国防総省は11月7日、シリアとイラクの3カ所に駐留する米軍が、1カ月間に38回攻撃を受けたことを明らかにした。そのほとんどはイラン革命防衛隊によるロケット、ドローン攻撃だったという。

アメリカは防空体制が機能していると強調しており、それによるとおそよ1200人駐留している米軍兵士に死者は出ていない。

mutsuji231114_map.jpg

とはいえ、現在の世界で、海外に展開する米軍が直接攻撃にさらされている土地は他にほとんどない(テロ組織によるものを除けば)。

革命防衛隊はイラン政府直属の軍事組織で、正規のイラン軍と同等、あるいはそれ以上の練度と装備を備えているとみられる。

イランは1979年以来アメリカと対立しており、アメリカから「テロ支援国家」にも指定されている。その反動で中ロとの関係が深い。

また、イランは周辺のイラク、シリアにも強い影響力をもっていて、それらに駐留する米軍への攻撃を加速させているとみられるのだ。

一連の攻撃に関するイラン政府からの公式表明はない。

米ロ両軍が最も近接する土地

ただし、この地域における米軍が注目を集め始めたのは昨年からだ。

米中央軍作戦部長アレクシス・グリンコウィチ中将は昨年3月23日、「シリアとイラクの米軍施設の上空をSu-34などのロシア軍戦闘機が頻繁に通過して威嚇している」と明らかにした。

ロシアにとって、シリアは冷戦時代から中東における数少ない足場の一つだ。

そのため、2014年にこの地域で「イスラーム国(IS)」が建国を宣言した後、ロシアは戦闘機による空爆などでシリア政府のアサド大統領を支援した。ただし、ロシアによる空爆の対象は、ISなどの過激派だけでなく反アサド勢力も含まれていたとみられる。

一方、アメリカなど欧米諸国も2015年頃からシリアで空爆などを行ったが、その目的にはロシアと対立するところがあった。

アメリカはアサド率いるシリアも「テロ支援国家」に指定してきた。そのため、アメリカは過激派への空爆を行う一方、反アサド勢力とりわけ少数民族クルド人へのテコ入れを行ったのだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人

ビジネス

日銀総裁、首相と意見交換 「政府と連絡し為替市場を

ワールド

ロシア、インドと地対空ミサイルS400の追加供給交

ワールド

中国が北京で軍事パレード、ロ朝首脳が出席 過去最大
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story