コラム

史上初の米下院議長解任は「同担拒否」の結果...解任劇に見るトランプ支持者の近親憎悪

2023年10月05日(木)14時00分

そのゲーツはこれまでもマッカーシーとの不仲が指摘されていた。

昨年の中間選挙後、マッカーシーの議長就任はほぼ確実視されていたが、実際には今年1月にまで就任がずれ込んだ。ゲーツら共和党の一部がマッカーシーを支持せず、議長承認投票が15回もやり直されたからで、これも異例のことだった。

ゲーツらはマッカーシーを「トランプ支持を掲げていても信用できない」という不信感をもってみていたと思われる。

ゲーツは2021年から下院の倫理委員会で審査の対象にされていた。未成年とのセックススキャンダルや違法ドラッグ使用などの疑惑が浮上したからだ。

この問題に関して、マッカーシーは議長就任以前からほぼノータッチの立場を保った。

マッカーシーの「個人攻撃」発言は、「自分が倫理委員会の審査を妨害しなかったことをゲーツが根にもった」という趣旨と理解できる。

ウクライナ支援をめぐる対立

こうした対立が決定的になったのが予算案だった。

アメリカでは今年6月、債務不履行(デフォルト)直前にまで至った。増え続ける国債発行額が議会の定めた上限(シーリング)を超えることに反対する共和党主導の下院が、予算案を可決しなかったからだ。

この際はバイデン政権による歳出削減努力と引き換えにシーリングの一時停止で妥協が図られ、いわゆる「つなぎ予算」を審議することでデフォルトは回避された。

議会下院は9月30日、11月17日までの予算執行継続を可能にする「つなぎ予算」を可決した。これによって政府機関の閉鎖という最悪の事態は再び避けられたが、焦点になっていたウクライナへの追加支援は盛り込まれなかった。

バイデン政権は昨年2月以来、すでに750億ドル以上をウクライナに提供してきたとみられる。

ただし、予算案可決の直前にマッカーシーは、それまでのトーンを弱め、国防総省のウクライナ支援策に協力する方針を打ち出していた。

この妥協はトランプばりの「アメリカ第一」を掲げながらも、議会下院をあずかる立場のマッカーシーにとって、避けられなかったともいえる。

しかし、これに関してゲーツは10月2日、「マッカーシーがホワイトハウスとの間で、ウクライナ支援の継続に関する'秘密の取引'をした」と主張し、議長解任動議を提出したのだ。

ゲーツに協力して動議に賛成したのが、下院少数派で反トランプの民主党議員だったことは皮肉としかいえない。

ゲーツはこれまで、「たとえ政府機関が閉鎖されても、自分はアメリカ国民と共和党支持者のために行動する」と強調してきた。

これに対して、解任後にマッカーシーはゲーツを「保守主義者ではない」と断定している。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

スイス中銀、第3四半期利益は279億スイスフランに

ワールド

韓国、国有資産売却を緊急停止 安価懸念で李大統領が

ワールド

スイス消費者物価、前月比で3カ月連続下落 中銀にマ

ワールド

韓国CPI、10月は前年比+2.4%に加速 金利据
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に「非常識すぎる」要求...CAが取った行動が話題に
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story