コラム

台湾海峡で対立しても「関係維持」を目指す意味──CIA長官の中国極秘訪問

2023年06月06日(火)19時20分

そのサリバンはバーンズ訪中に関する報道があった2日、公演で「問題を仕分け(compartmentalize)する必要」を強調した。つまり、台湾問題をはじめ貿易や人権など米中間には数多くの問題が山積しているが、一つの問題によって全てが停滞するのは避けなければならない、ということだ。

言い換えると、意見の一致しない問題では対立するとしても、関係そのものの維持を大前提にする方針である。

いくら気に入らなくても、迷惑な隣人と異なり、引っ越して済ますことはできない。また、お互いの経済的利益も捨てがたい。だとすると、せめて正面衝突というお互いにとって最悪の事態を避けるため、相手とかかわり続けることは合理的な判断といえるだろう。

米中の艦船のニアミスと異なり、こうした地味なテーマはどこの国でもほとんどのメディアがあまり熱心に取り上げない。

しかし、片手で中指を立てながら、もう一方の手で握手するという複雑さこそ国際政治の機微なのだ。それを見落とすことは、ドラマの伏線に気づかないまま最終回に「どういうこと?」と首を傾げる視聴者と同じく、世界の変化を捉え損なうことになるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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