コラム

ベラルーシがロシアに協力的な5つの理由──「強いソ連」に憧れる崖っぷちの独裁者

2022年03月03日(木)20時05分
プーチン大統領と握手するルカシェンコ大統領

プーチン大統領と握手するベラルーシのルカシェンコ大統領(2022年2月18日) Sputnik/Sergey Guneev/Kremlin via REUTERS

ロシアとウクライナの停戦に向けた協議の第一ラウンドは、ベラルーシのホメリで行われた。また、アメリカ政府は「ベラルーシもウクライナに部隊を派遣する可能性がある」と報告している。ウクライナ侵攻でしばしば名前のあがるベラルーシとはどんな国で、なぜロシアに協力的なのか。これに関して以下では5点に絞って紹介しよう。

(1)「侵攻にかかわっていない」

ベラルーシはロシアの西隣で、ウクライナの北隣に位置する。この国は、ウクライナ侵攻が始まる前からロシアへの協力が目立ってきた。

mutsuji220303_map.jpg

例えば、昨年末から10万を超えるロシア軍がウクライナを取り囲むように展開していたが、そのうち約3万はベラルーシにいた。ウクライナでの緊張が高まっていた2月、ロシア軍はベラルーシ軍と合同軍事演習を行ない、それが終わった後もベラルーシにとどまり続けていたのだ。

この時点ですでに「ロシア寄り」とみなされても仕方ないが、ベラルーシ駐留のロシア軍は2月24日、ウクライナ領内のチェルノブイリ(1986年の原発事故で有名)方面に進撃した。

ベラルーシのルカシェンコ大統領はこれまで「ウクライナに部隊を送っていない」としばしば強調してきたが、そうだったとしてもこの国がロシア軍の一つの拠点になっていることは間違いない。そのため、ベラルーシの野党からは「ロシアの野蛮な行為に協力するルカシェンコ政権への制裁」を世界に求める声もあがっている。

(2)「強いソ連」への憧れ

ロシアとの深い関係は、この国のルカシェンコ大統領が「強いソ連」への憧れを強く持つことに一つの原因がある。

ベラルーシは1991年のソビエト連邦崩壊とともに独立した国の一つだが、当時ベラルーシ最高会議の議員だったルカシェンコはソ連解体に唯一反対した議員だったといわれる。

ベラルーシ独立後、ソ連時代から権力を独占してきた共産党関係者の専横や腐敗が目立つなか、ルカシェンコは「反マフィア(既得権益層を指す)」を掲げて1994年の大統領選挙に立候補して勝利し、この国で初めての大統領に就任した。

それ以来、30年近くにわたって権力を握ってきたルカシェンコは、周辺の旧ソ連圏や東欧諸国が欧米に接近するのを尻目に、基本的にロシア寄りの態度を保ってきた。

例えば、NATO加盟はウクライナでデリケートな問題となってきたが、ベラルーシは1992年に発足したロシア中心の軍事同盟、集団安全保障条約機構のメンバーである(加盟国はその他アルメニア、キルギス、カザフスタン、タジキスタンの旧ソ連構成国)。そのため、いずれかの国が攻撃を受ければ、共同でこれに対応することになる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マレーシア、16歳未満のSNS禁止を計画 来年から

ワールド

米政府効率化省「もう存在せず」と政権当局者、任期8

ビジネス

JPモルガンなど顧客データ流出の恐れ、IT企業サイ

ワールド

米地裁、政権による都市や郡への数億ドルの補助金停止
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 5
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story