コラム

「アフリカの星」はなぜ凋落したか──エチオピア内戦と中国の影

2021年11月05日(金)14時30分
TPLF掃討作戦を支持するデモ

政府によるTPLF掃討作戦を支持するデモ(2021年8月8日) Tiksa Negeri-REUTERS


・アフリカにおける「成長モデル」とみなされてきたエチオピアでは、内戦の激化で経済に急ブレーキがかかっている。

・内戦の激化によって、政府側、反政府側のどちらにも民間人の虐殺といった行為がみられ、国連は「極度の野蛮行為」を警告している。

・この内戦の激化に神経を尖らせているのが中国で、そこには評判の悪化への懸念がある。

約20年間、「地球上最後のフロンティア」と呼ばれたアフリカの経済成長は曲がり角を迎えている。

成長のモデル国の惨状

北東アフリカのエチオピアで11月3日、アビー首相が全土に緊急事態宣言を発令した。これは北部ティグレ州での戦闘の激化を受けてのもので、アビー首相は市民に自衛を求めた。

mutsuji20211105123701.jpg

ティグレ州では昨年11月からティグレ人の民兵組織ティグレ人民解放戦線(TPLF)と政府軍の衝突が続いてきた。その影響は市民生活にも大きな影響を及ぼしており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、すでに4万6000人以上が北西に隣接するスーダンに逃れただけでなく、国内避難民も170万人にのぼる。

民間人に対する虐殺やレイプも増加しており、国連は3日に発表した報告書で「極度の野蛮行為」が確認されたと述べている。

エチオピア内戦の本格化は、これまで経済成長にわいてきたアフリカの今を象徴する。

日本では「アフリカ=資源」のイメージが強いが、エチオピアはほとんど資源を産出しない。しかし、それでも政府主導で農産物の多様化などを推し進めた結果、2000年代初頭から2010年代末に至るまで、平均8%前後の成長率を維持し、そのパフォーマンスはアフリカ屈指のものとして海外の注目を集めてきた。

mutsuji20211105123702.jpg
エチオピアの経済状況(出所)IMF, World Economic Overview.

ところが、コロナのダメージとティグレ州での内戦の影響から、IMFによると、エチオピアの2021年のGDP成長率は2%程度に落ち込む見込みである一方、物資の不足によってインフレ率は25%を上回る。

アフリカ経済全体が2014年の資源価格下落、そして昨年からのコロナで深刻な停滞に見舞われるなか、資源に頼らない経済成長のモデルケースとみなされてきたエチオピアのイメージも、今や音を立てて崩れ始めているのだ。

エチオピア内戦はなぜ起こったか

この20年間、政治的な安定と経済成長で「アフリカの星」とみなされてきたエチオピアで、なぜ内戦が激化したのか。そこには多民族国家エチオピアで、誰が権力を握るかの争いがある。

政府と争うティグレ人組織TPLFは、かつてエチオピア政府の主流だった。これを締め出した新興勢力との間で激化したのが今回の内戦である。

多民族国家エチオピアでは1991年、それぞれの民族の武装組織が参加して連合体エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成し、当時の社会主義政権を倒した。その後、EPRDFが与党として事実上の一党制を形成し、エチオピアを統治してきた。

しかし、その中心の座に居座ったTPLFがティグレ出身者で要職を固めたりしたため、他の組織・民族の不満は徐々に大きくなった。なかでもティグレ人と激しく対立してきたのが、エチオピアで最大の人口を抱えるオロモ人だ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、選挙での共和党不振「政府閉鎖が一因」

ワールド

プーチン氏、核実験再開の提案起草を指示 トランプ氏

ビジネス

米ADP民間雇用、10月は4.2万人増 大幅に回復

ワールド

UPS貨物機墜落事故、死者9人に 空港は一部除き再
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    カナダ、インドからの留学申請74%を却下...大幅上昇の理由とは?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    もはや大卒に何の意味が? 借金して大学を出ても「商…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    若いホホジロザメを捕食する「シャークハンター」シ…
  • 8
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story