コラム

アボカドは「悪魔の果実」か?──ブームがもたらす環境破壊と難民危機

2021年06月22日(火)12時20分

一般的に特定の農作物を大量に栽培し続けると土地が荒れやすいが、とりわけ大量の水を必要とするアボカドの生産量が急に増え、それにつれて違法な森林伐採が増えればなおさらだ。

生活を脅かすアボカド栽培

もともとアボカドは乾燥地帯の作物で、その栽培に適した土地では定期的に雨量の少ない年も発生する。しかし、取引を優先させると、自然のサイクルを無視してまで無理な散水を行なうことになり、それは現地で深刻な水不足を引き起こす。

こうしたアボカド栽培は、現実に自然災害を増やしている。

主な生産国の一つチリでは2019年、アボカド生産地ペトルカでの水不足に非常事態を宣言した。住民が土地の水をテストした結果、基準値を超える大腸菌が検出されたという。

さらに、水不足は予期しない地震をも引き起こす。

アボカド栽培が盛んなメキシコ中西部ウルアパンでは昨年、地面が何度も揺れる現象が立て続けに発生し、1カ月に3,000回以上も揺れた時期もあった。現地政府は過剰なアボカド栽培によって地中の水分が減少し、地表のすぐ下の地層に大きな空洞ができていると発表した。

豊かな国の消費者の責任

農作物や畜産物は、ほぼ必ず水を消費して生産される。これらを海外から輸入することは、現地の水を消費していることにもなる。これは「バーチャル・ウォーター」と呼ばれる考え方だ。

美容や健康への意識が高まる豊かな国が、熱帯の国からアボカド輸入を増やすことは、バーチャル・ウォーターの量も増やすことになる。つまり、アボカド生産地の水不足は豊かな国のライフスタイルが一因なのだ。

付け加えると、生産国が熱帯に集中しているアボカドは、その輸送で発生するCO2の量も多い。2個のアボカドの輸送で発生するCO2は平均846.36グラムだが、これはバナナ1キロの輸送に必要な480グラムの約2倍にあたる。

つまり、現状のアボカド・ブームは地球温暖化対策に逆行する側面もあり、この原因の一旦も消費者の行動にある。

アボカド・ブームが生む暴力

最後に、アボカド・ブームは中南米の難民危機の一因でもある。

中南米から難民としてアメリカに入国を目指す人の流れは途絶えることなく、今年4月だけで17万人以上がメキシコ国境に押し寄せた。そのなかにはメキシコ最大のアボカド産地ミチョアカン州から逃れてきた者も含まれる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人・失業率4.6

ビジネス

ホンダがAstemoを子会社化、1523億円で日立

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

トランプ氏がBBC提訴、議会襲撃前の演説編集巡り巨
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story