コラム

アボカドは「悪魔の果実」か?──ブームがもたらす環境破壊と難民危機

2021年06月22日(火)12時20分
アボカド、「グリーンゴールド」と呼ばれることもある

アボカドは生産国で「グリーンゴールド」と呼ばれることもある FinestWorks-iStock


・アボカド栽培には大量の水が必要になるため、消費が世界的に増えるなか生産地では水不足が深刻化し、健康被害も出ている。

・また、アボカドは熱帯の国で栽培されることが多いため、輸送段階で排出されるCO2が全体的に高く、アボカド・ブームは地球温暖化対策にも逆行する。

・豊かな国のライフスタイルによる影響は、アボカド生産国における暴力の増加にも及んでいる。

その栄養価の高さから、アボカドは日本でも急速に普及している。しかし、その生産・流通は他の多くの農作物と比べても環境への負荷が大きく、さらに中南米での難民危機にも影響を及ぼしている。

「グリーンゴールド」は持続可能か

アボカドは10種類以上のビタミンを含む一方、果肉の約20%が脂肪にあたり、「森のバター」とも呼ばれる。その豊富な栄養価から日本でも消費が伸びており、主にメキシコから年間約2万トンが輸入されている。これは10年前の4倍以上にのぼる。

mutsuji210622_avocado2.jpg

アボカドが注目され始めたきっかけは、1997年にアメリカがメキシコ産アボカドの輸入を解禁したことだった。これにより、それまで農作物などの病気を理由に輸入が禁じられていたアボカドが急速にアメリカ市場で広がり、健康志向の高まりやオーガニック・ブームを背景に一気に普及したのだ。

現在、アボカド・ブームは消費量世界一のアメリカからヨーロッパ諸国や中国など各地に広がっており、その市場規模は世界全体で92億ドル以上にのぼる。需要の高まりと価格上昇によって、アボカドは生産国で「グリーンゴールド」とも呼ばれる。

しかし、それとともに欧米では、数年前からアボカド・ブームの問題も注目されている。結論的にいえば、少なくとも現状のアボカドの生産・消費は持続可能ではない。

水が足りない!

特に多く指摘される問題が、生産地で水不足を引き起こすことだ。

mutsuji210622_avocado3.jpg

中南米原産のアボカドは、現在もメキシコ、ドミニカ、ペルーなど、中南米をはじめ熱帯地域でそのほとんどが生産されているが、世界の需要の高まりとともに生産量は急激に増加している。最大の生産国メキシコの場合、この10年間で生産量、耕地面積とも2倍近く増えた。

ところが、平均的にアボカド栽培には1トン当たり1,800立方メートルの水が必要で、これはバナナ(790)、オレンジ(560)、スイカ(235)など多くの農作物と比べて、非常に高い水準にある。メキシコではオリンピックで使用されるプール3,800杯分の水がアボカド生産のために1日で使用される。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story